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人生  作者: yoshi88
:22歳 第四章 葛藤を謳え、因果をねじ伏せる欺かざる魂は世界線を越える
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7.転機(その1)

 大阪でも重ね着をしなければ少し肌寒い急に本格的な秋を迎え始めている――。


 今日も通勤中、銀杏(ぎんなん)が無数に落ちている大通りを横切った。足早に道を急ぐ人々、自転車の(わだち)に潰された実の独特の匂いが足元から立ち込み鼻につく。曇天の空模様はまるで僕の気持ちを鏡越しに映し出しているようだ。


「・・・ヨシ君、昨日の家、良かったね」


 欠伸交じりに僕に視線を寄越してきた。


「うん、そうだね...」


 田川君は新刊を既に四分の三程読み終えていた。あの後帰りの電車の中でも嬉々として読んでいたし、余程面白いのか恐らく帰宅してからも夜遅くまで読んでいたのだろう。


 そういえば、「住宅探検」の帰り道から今まで、ずっと田川君と話していない気がする。こんな事はお互い出会ってから初めての出来事かも知れない。ほんの些細な出来事――。


 僕は昨日の家の主人に言われた一言に、


(...そこまで言われなくても...。)


 とメンタル的に少し傷つきつつ悶々とした心持ちであれこれ考えていたが、


 途中で面倒になって寝てしまった。


 今日も何時ものマクドの何時ものテーブルで僕は「住宅建築」をパラパラと(めく)っていたが、内容は全く頭に入って来ない...。


 僕達は少し早めに事務所に戻って昼からの準備する事にした。


 今日は出来上がった書類を役所に提出する日だ。


 何時もは僕一人で行くのだが、今日は次の案件を現場で実測する為、上司と一緒に出掛ける予定だ。帰りに役所によって書類を提出すれば良い。


(...「自転車駐輪所の配置計画」だけなのに現場を実測する必要があるのか...。)


 と、最初は思ったものだが、図面には記載されていない配管や消火対策の安全設備、コンセントBOXの位置等、現場を見なけば分からないような想定外の事が発生し、コンベックスで寸法を測るにしても二人いなければ計測出来ない。だから実測する時は上司と行動する事が多かった。


 提出物に誤記があっても大抵の場合上司がいれば、その場で簡単に修正してしまい作業が完結する。上司は一級建築士ではないが、社長が一級建築士で事務所で完成させた成果品には全て社長の押印によって書類を提出し、訂正があった場合でも社長の訂正印で訂正する事になる。


 これは1人で事務所を構えていても、100人の従業員がいる設計事務所でも専任の管理建築士は法律で義務付けられており、1人で良い。逆に言えば、1人も1級建築士がいなければ1級建築士事務所として廃業となる。


 早めに実測を終えた上司と僕はそのまま役所に移動し、午後3時に書類を「建築課」の担当者に提出した。


 担当者は提出物に不備や足りない書類がないかその場で簡単にチェックする。


 通常「(せい・副・控え」の3部を作製し、その内2部を提出する。1部は役所保管用、もう1部は受領印、合格印が記載され返却される。最後の1部は手持ちで持っておき、その場で指摘された部分を同じように記載していくのだ。


 記入漏れや誤字脱字等くらいであればその場で訂正し、訂正箇所に事務所印を押印して提出する。時間が掛かりそうな訂正であれば持ち帰り改めて修正した書類と差し替えるのだ。


 ・・・担当者は書類見ながら、一か所だけ計算ミスの誤記を発見し、訂正を求めてきた。僕は、


(...良く簡単なチェックで気付いたなぁ...。)


 と感心しつつも、表計算ソフトを過信しすぎ検算を怠った事を反省しながら、簡単な訂正で取り敢えず受け取ってもらえた事に安堵した。


 役所を出ると時計は3:50。まだ4時にもなっていない...。


 "喫茶店でも寄って、時間を潰してから事務所に戻りませんか?"


 と上司に提案しようと考えていた時、前方に人(だか)りが見えた。建物の前に張り紙が掲げてあり、何か催し物を展示しているらしい――。


 何気なく遠巻きにみていると、大学生と社会人が参加している何処かの案件に対する「設計コンペ」で、その優秀作品が展示されている事が分かった。


「設計コンペ」と言えば学生時代に「劇場を有する多目的ホール」という設計コンペの課題で3位に入選した思い出がある。


(...そう言えば、あれから少しだけ建築も良いなぁって思うようになったっけ...。)


 懐かしい甘酸っぱい思い出が後押し、時間も少し持て余し無料で鑑賞出来るようなので、取り敢えず上司を誘って中を覗いて見る事にした。

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