2.(続)俺達の休日
滅多にない事ではあるが、2人共揃って"カレーうどん"に"カツ"をトッピングした「かつカレーうどんセット」(1100円)――。
暫くして、お目当ての品が運ばれてきた。大きな器にあつあつの出汁たっぷりのカレーうどんの中に、牛すじとこんにゃくを甘辛く煮込んだ神戸のご当地グルメ「ぼっかけ」が浮かんでおり、横に長ねぎが添えられている。
真ん中には豚肉を揚げた「とんかつ」、"カツ"が黄金色にどーんと鎮座しており、見ているだけで生つばが出てきそうだ。セットなのであとは白ご飯と沢庵。
「いただきます!」
(...何から手をつけようか?...。)
田川君は慎重にれんげで、あうあつのスープを一口啜っている。
僕は左手に白ご飯を持ち、箸でザブーンとカレーの出汁の中に「とんかつ」を沈めた。どろっとしたルーがたっぷりかかったカツを一口頬張る。
ざくざくした食感に、濃厚であつあつのカレーが纏わりつく。ルーは甘口...。
「うまぁ!」
思わずニヤニヤした田川君と目が合った。
うどんはもちもちした、少し細目の自家製手打ち麺がたっぷり器に盛られており、麺と麺との間にルーが絶妙に絡んでくる。
思わず僕達も隣のお姉さんのように、ズルズルと啜りだして気がついた。――カレーうどんは外食の中でも特に気を付けて食べないと、――啜った時に麺が口に入る瞬間、撥ねて出汁が周りに飛び散ってしまうのだ。
僕は今日着ている服がグレー系の長袖だった事にほっと胸を撫で下ろしたが、右隣の田川君は真っ白のシャツに黒いパーカーを羽織っていた。
そしてカレーうどんの熱気で彼は事も有ろうか、パーカーの脱ぎ始めた...。
外は少し肌寒くなって、山々が色ずく季節となっていたが、店の中は食べ物の熱気で少し汗ばむくらいの体感温度になっている。
僕は慎重にずるッと一口啜る間に、彼は僕の左隣りのお姉さんと張り合うように、ズルズルズル!ズルズルズル...。旨い旨いと言いながら必死にカレーうどんを啜っていた。
左右からズルズルと美味しそうな音に挟まれながら、僕はゆっくり「ズルッ」と啜ってみた。
(...あっ!...。)
1年前に一人旅で購入したお気に入りのBOBSONのジーンズに、どろっとカレーのルーが撥ねてしまった。慌てて直ぐおしぼりで拭きとってみたが、少しだけ黄色い染みのようになって落ちる気配がない...。
――店を出た僕達は食後の喫茶店を探しつつ、神戸大学の方に向かってぶらぶら商店街を歩いていた。
田川君が、
「今日の店は当たりだったね」
と満足気に話しかけてきた。
「そうだね」
と答えつつも、意外と上手にカレーうどんを食べていた田川君を恨めしく思っていた。
(...折角の休日だ、楽しまないと...。)
心を切り替えて、二人で「今日の予定」を確認していると、一軒の古本屋さんが目に留まる。
ふらふらっと田川君が中に入ろうとする。
僕は、
「無理無理無理無理!」
田川君の袖を引っ張った。田川君は怪訝そうな顔を僕に向けて、
「どうしたの?」
何故か古本屋に入ると全身痒くなってしまう体質で、ウルトラマンと同じく、長くても3分間しか滞在出来ないと伝えた。
誤って古本屋に入ってしまったら、直ぐにお風呂に直行し、頭の天辺から足のつま先まで綺麗に洗って、そのままザブンと湯船に浸からないと落ち着かない。当然着ていた服は全て洗濯しなければならない。
たとえ5倍の時給が貰えても、古本屋だけはバイトしないと学生の頃から心に固く誓っている。
「そうなの?」
と、ニヤニヤしながら僕を見つめてきた。
「あそこに"グイン・サーガ"の第1巻~10巻まで800円で売ってるから、ヨシ君にも薦めようと思って」
(...800円は確かに安い...。)
少し迷ったが、
「分かった。じゃぁ、お金渡すから田川君が僕の代わりに買って来てよ」
「おっけー!」
田川君は上機嫌で何の抵抗もなく、古本屋に入って行った。自分の趣味の話しを僕と共有出来るのが嬉しいのだろう...。
そもそも今日の「演劇」も僕が高校時代部活で「演劇部」だった事に関連している。はっきり言って僕の趣味を彼と共有したい為に付き合ってもらっているようなものだ。
彼以外にも専門学生時代友人を誘って劇を観に行ったが、「観劇」は、たった1回観ただけで必ずその人の好き嫌いがはっきりする。
好きな人はまた観たいと思うし、興味が無い人は二度と観に行こうとしない。
"どっちでも良いよ"という人はいないのだ...。
田川君は以前一緒に観に行った事もあり「前者」なので、僕としては安心して連れて来られる。・・・10巻分の小説をリュックに入れて食後の運動も兼ね、僕達は神戸大学まで歩く事にした。




