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人生  作者: yoshi88
:21歳 第三章 無智と無謀の偽善者は、今日も素敵なマスクを被る 
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28.倉敷アイビースクエア

「倉敷珈琲館」を後にした僕は、大通りから少し奥をぶらぶら歩いていた。美観地区を隣接するように「倉敷アイビースクエア」がある。


明治時代に建設された倉敷紡績所の本社工場を再開発した複合施設で、敷地内には宿泊施設やレストラン、宴会場の他、体験工房や歴史館、地元の特産品などを扱う店が赤レンガで統一された敷地内にお洒落に馴染んでいる。


レンガを蔦ってアイビーの緑の葉が離離(りり)として生い茂っており、葉の緑と赤レンガ色のコントラストが絶妙にこの空間の美しさを際立たせている。古き良き時代の遺物を見事に「現代アート」として再構築しているかのようだ。


 設計は建築家浦辺鎮太郎(うらべしずたろう)氏で、文化的にも貴重な操業当時の工場外観と基本構造を残した設計は美しく、他にも倉敷市街を中心に「大原美術館分館」や「倉敷国際ホテル」、「倉敷市庁舎」等数多くの建築に携わっている。中庭のある「倉敷珈琲館」も彼の設計によるものだ。


 僕はその中にある一軒のジーンズ、デニムの店に入っていった。


 美観地区にも「倉敷デニムストリート」というジーンズ店が集まったような観光スポットがあるが、どうやら倉敷市児島(こじま)は1965年に日本初の国内で縫製されたジーンズが誕生したことから、"国産ジーンズ発祥の地"として地元市民に親しまれているようだ。


 この地にもともと根付いていた紡績、綿花の生産や織物産業、小島の職人達の伝統的な技、"藍染めの技術"、更に日本のジーンズを広めるため、履き心地を良くする「洗い加工」技術の誕生――。


 そうした一つ一つの技術が結集し、今日の世界が認める「岡山デニム」の誕生に繋がる。


 早速店内に入った僕はあれこれとジーンズを眺めていた。どれも同じように見えるが、ジーンズの歴史についての蘊蓄(うんちくを店員から教えてもらった今では、少しはジーンズつうになったのかも知れない。


例によって、自分が欲しいと思ったものは最初に手にした数着で大抵決まってしまい、ほとんど迷った事はない。僕にとってファーストコンタクトが、一番重要である。


ぶらぶら店内を物色していると藍染めような濃いブルーではなく、どちらかと言えばすこし水色のような、淡いブルーの一着のジーンズが目に留まった。


キャッチコピー"猫の毛の手触り..."


(...おいおい、猫の毛の手ざわりだと?(たかがジーパンで、ニャーニャー鳴く猫の毛の手触りを再現するなんて不可能やろ?...。)


(...ほんまや!猫や、猫の毛の手触りや!...。)


確かな技術に心底驚嘆した。「猫の毛の手触り、BOBSON」――。


 BOBSONは1969年に岡山で創業し、成長してきたジーンズブランドである。


 僕は服を買いに、ましてやジーンズを買いに倉敷へ一人旅に出かけてきたわけではないが、店員さんの


「ありがとうございました。また来てくださいね」


・・・店を出る頃には、すっかりBOBSONファンの一人になっていた。


 それから体験工房に寄ってみることにした。


 体験工房では轆轤(ろくろで陶磁器を作っていた。観光客らしき親子が轆轤を上手く操り、何やら湯呑みのような(うつわ)を作っている。


子供の方は何を作っているか分からないくらい原形を留めておらず、諦めて道具で粘土細工のように違う事をして遊びだしていたが、お母さんの方は真剣で、上手に湯呑の形になっていた。


それに絵付(えつ)けを施し、窯で焼いて完成となる。実際は作品の乾燥や釉薬(ゆうやく)をかけて焼成(しょうせいする作業はしてもらう必要があり、焼き上がりまでに約2ヶ月ほど掛かるようだ。


(...面白そうだな...。)


と、思ったが一人で参加するのは気恥しく、また完成までかなりの時間を掛かるらしいので今回は諦める事にした。


ここに田川君がいたらまた違った展開になっていただろう...。


 工房を出る頃には太陽は西の空に傾き、分厚い雲間から時折、工房の壁面を赤い光が細く差し込んでいた。今日一日はなんとか天気は持ちこたえてくれている。


 それから美観地区に戻り、今度は大通りの一本裏手の道を物色する事にした。裏手といっても美観地区内である。古き良き時代を思わせるノスタルジックな蔵屋敷や洋館が建ち並び、手作業で行っていた頃の、まだ未成熟な硝子製造技術によって生み出された"歪み"や"ゆらぎ"、気泡がある窓硝子が、独特の味わいを醸し出している。

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