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人生  作者: yoshi88
:21歳 第三章 無智と無謀の偽善者は、今日も素敵なマスクを被る 
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26.邂逅(その2)

 駅から倉敷美観地区までは南東へ真っすぐ行けば良いらしい。まず迷わないとのこと。日頃方向音痴と自覚しているが、旅に出ると自然と感覚が冴えわたり、大体道には迷った事がない。しかし、今回は地図も持たない初めての一人旅。


(...大丈夫だ...。)


 大きく深呼吸し、一路美観地区方面へ向かう。


(...美観地区って言われてるのだから、きっと綺麗な処だろう・・・何か名物があったりするのかなぁ?...。)


 事前情報は"大原美術館が美観地区内にある"それだけだ。

 あとは何も知らない。必ず立ち寄る"有名スポット"もいくつかは見逃す事になるかも知れない。が、それはそれで良い。


 ・・・駅からぶらぶらと15分も歩くと、何となくそれらしき風情のある雰囲気の空間が顔を出す――。


 往来の真ん中に小川が通っており観光客を乗せた手漕ぎ船が水路を行きかっている。川の(たもと)は城壁のような石積みが緻密に施され、両側に古民家を思わせる白壁の蔵屋敷や、明治か大正時代を想起させる建物も点在している。


 川を繋ぐ石橋や素朴な石作りの欄干、川の両岸には青々とした柳の木がゆらゆらとそよ風に(なび)き、如何にも自然な装いで植樹されている。柳の陰が日の光に照らされて、川面を抹茶色に染め上げなんとも美しいこと、この上ない。


  美観地区は公共の大通りと区画させているわけではないので、誰でも無料で自由に出入り出来るのもまた良い。


 暫くその場に佇んでいたが、出店も多く、そぞろ歩きしながらあれこれ物色してみる。


 ――川の片側、表通りの散策を大方終える頃になると、朝から何も食べていないと思い出した。


(...小腹が空いてきたな...。)


 ふと見ると、石橋を渡った向こう岸の表通りに、何か食べ物屋さんを彷彿とさせるような一軒の蔵屋敷が目に留まった。


 真っ赤な門扉は西欧風の草模様、いや何処かインドのペルシャ風模様かもしれない。落ち着いたレトロな味わい深い佇まいを覗かせている。


「倉敷珈琲館」美観地区に存在する唯一の喫茶店。


 すぅっと僕は引き寄せられるように近づいていった。


 ・・・自身の人生において、後にも先にも以後30年間、これ以上の上質な喫茶店に一度も出会う機会を得ていない。


 正に自分史上"日本一の喫茶店"・・・その初めての出会いになろうとは、この時は夢にも思わなかった...。

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