13.X(エックス)デイ到来
仮免許を取得し、合宿も後半に入ってくると座学の学科内容は殆ど無くなり、課題の大半を実技が占めるようになる。後半になればなるほど、暇な自由時間が増えてくる――。
飽きずに毎日毎日海に潜っている僕は、日焼け止めも塗ってはいるものの、全身真っ黒に焼けており、背中や頬当たりの皮がめくれてきたのは、既に3回目になっていて、何時も服を着る時肌に擦れてひりひりする。
午前中、何時もの日課である"ハマグリ採り"から帰って部屋に戻った僕を見て、仁君が、
「ヨシ兄どれくらい採れた?」
と聞いてきた。
「いや、今日は全然おらへん。採れんかったわ」
「そっかぁ」
"UNO"で仁君と遊んでいるヤッ君は残念そうな声で呟いた。
「それにしても飽きてきたわぁ。何か面白い事ないん?・・・仁、女子寮ってホンマに女、おるんか?」
「さあなぁ...」
仁君も見た目からは想像できないが、地元に小学校の先生をしている年上の彼女がいるらしい...。そして意外にも彼は一途だ。
「暴走族と女教師」安物の映画タイトルみたいで変な感じだが、上手くやっているなら他人が口を挟む事ではない。
・・・そんな退屈な日々を送っていた僕達の部屋の前で、
「ちわぁーす!!!」
大声で叫ぶような声が聞こえてきた。
ニヤリとした仁君が、
「おぉ!入ってこい!」
と、その声に向かって返事をする。
勢い良く扉が開くと、4、5人の男達がぞろぞろ狭い僕達の部屋に入って来た。
「失礼します!オス!!!」「オス!」「オス!」「オス!」「オス!!」
・・・体格の良い、特に一番最初に入ってきた漢はモヒカン頭に、仁君にも負けず劣らず鋭い眼光と分厚い胸板をしており、両腕には太い血管が蒲公英の根のように浮き上がっている...。
絶対に話し掛けてはいけないような、彼の半径1m以内に入っていけないような"危険なオーラ"をビシビシと周囲に放っており、隠す気もなさそうだ...。
「危ない集団」と顔に書いてある男達が挨拶がてら、「少年ジャンプ」「マガジン」「サンデー」等、本屋で陳列されている最近の漫画や、怪しげなエロ本、週刊誌類合計30冊!その他お菓子、ビーチパラソル、浮き輪、水中眼鏡、レジャーシート、人生ゲームを持って入ってきた。
「おおぅ、助かるわ、サンキュー!」
仁君がモヒカンの肩にポンポン手をおいて笑いかけていた。肩に手を置かれたモヒカンも嬉しそうに、ペコペコ頭を下げている。
(......。)
ふとベットで横になっていた僕を見つけたモヒカンが、僕の方を見て威嚇してくるのが分かる。それに気づいたヤッ君は、
「あぁ、奥におる奴、俺の連れ、ヨシ兄」
それを聞いて急にさっきまでの威圧感は解いたものの、モヒカンはまだ釈然としない様子で僕の方をぎろりと見下ろしてくる...。
「ヨシ兄に絡むのやめとけよ」
今度は仁君がモヒカンに一言で諭す。
流石に二人に注意を受けたモヒカンは、しぶしぶながら、
「オス...」
と僕の方へも軽くお辞儀をしてくるのだった。
僕も取り敢えず、
「ヨロシク」
と、これまた仁君と初めて交わした同じ返答を彼に返した。
仁君が、
「カズは、俺達の部屋に入るんか?」
「いえ、まだ部屋が空いてるから違う部屋に行きます」
そう言ってカズ、他4名の集団はぞろぞろ僕達の部屋から立ち去って行った。
・・・脅威は去った...。
僕と同居する2人はそれぞれ同じチームでも、ある程度地位が上の位、"ポジション"がある事を瞬時に悟った。
法律で18歳以上しか車が運転出来ない事を考慮すると、彼らもヤッ君と同級生のはずだ。が、それでもヤッ君達に敬意を払っていた。
ヤッ君と知り合って最初は後悔したものの、今になって思えばこれはかなり"この合宿で一番幸運な出来事"だったとしみじみ思う。
「・・・腹が痛い...」
海に潜り過ぎてお腹が冷えていた僕は、急いでトイレに駆け込んだ。
(...人生、何があるか分かないなぁ...。)
少し気持ちが高ぶっているのは、さっきの出来事のせいか、どさくさに紛れて持ち出した自分では決して購入した事がないこの疑わしこの週刊誌の所為なのか...。




