4.(続)僕に出来ること
彼女はさっきと同じ場所で僕の帰りをじっと待っていた。
「・・・駅員を見つけたけど、来てくれそうもない...」
少し息を切らせながら、さっき言われた事を彼女にそのまま告げた。
僕は彼女の落胆と、どうして良いか分からない表情を尻目に、プラットフォームの上から彼女が落としたハイヒールを探した。
人混みで少し蹴り飛ばされたのか、ハイヒールは落とした位置から1m程離れた場所、プラットフォーム側に落ちていた...。
(...良かった...。線路上じゃないなら、取り敢えず列車には踏まれそうにないな...。)
ハイヒールが落ちた場所のすぐ横に"押入れ"くらいの空間が広がっている。
いつか見たアクション映画で主人公が退避スペースを利用して列車に跳ねられるのを回避に利用したあのスペースだ。
僕は戻ってくる時浮かんだある考えを、実行する事に躊躇いはない。
「今から僕が下に降りて、あなたの靴を取ってきます。でも、僕はすぐに駅員に捕まってしまうでしょう。だから、僕は拾ったらすぐに逃げます。・・・どうか、僕の事は忘れて下さい。あなたは何も知らない事にして下さい」
最後に彼女向かって微笑むと、僕をまたびっくりした目で彼女が見つめてきた...。
反対ホームに列車が到着する、その瞬間――。
(...こちら側にもあと10分後、又次の列車が到着するはずだ。たった10分しかない!でなければ、死ぬかもしれないし、死ななくても100%捕まって新聞沙汰になってしまう...。)
頭は恐ろしく冴え、迷いは毛頭ない。僕は上司に貰った鞄や新聞、上着もそこに置いてネクタイを外す、間髪を入れずそのまま下に飛び降りた!!
全く意味が分からない行動に、通勤通学の人達が一斉に僕の方を振り向くのを全身で感じる...。
「ピピピピピー!」
けたたましい列車の発車音にかき消されてはいるが、明らかな異常事態に周囲が騒つきはじめている。・・・僕は飛び降りるや否なハイヒールを右手で掴み、それをすぐさまホームの上に投げた。そして、もう一度上がろうとした。
左側を見ると遠くの方に、この番線に入ってくるかもしれない列車の車両が、少しずつ大きくなり始めている!
(...急げ!...。)
僕は、さっさとホームに上がろうとした、が、――ここで大きな誤算が発生する。――線路の高さとホームの高さは1.6mくらい差があり、簡単には登れそうもない...。
(...これは、やばいな...。・・・もうあと5分で僕は本当に死ぬかもしれない...。)
――渾身の力を込め、僕は必死にプラットホームに這い上がろうと、右手に力を入れた。ふと、僕の袖を引っ張り、上から誰かが僕を引き上げようと手助けしてくれている...。
(...眼鏡っ娘!...。)
・・・何とか上に這い上がった僕のカッターシャツは、真っ黒に変な線ついており、油のようなものがべっとり付着していた。ズボンも真っ黒になっている...。
ホームの向こうの方から、さっき僕を無下に扱った駅員が血相を変えてこっちに向かって走って来る・・・のが見える。
僕は我に返って荷物とネクタイを握りしめ、そのまま立ち去ろうした。
「あっ...りがとう」
声がした方を振り返ると今まで我慢してしたのか、顔を真っ赤にしながらその場にうずくまり、・・・泣いている...。
僕は一気に改札を抜け、そのまま地下鉄に乗り換えホームの男子トイレに駆け込んだ――。
ネクタイを締め直し何事もなかったような顔つきで、汗ばんだ顔を洗う。
汚れているシャツを隠す為に、上着を羽織って石鹸で丁寧に手も洗う。
「あっ!」
・・・股が裂けているのを思い出し、僕は苦笑した...。(完)
第二章 と、ある日の出来事
これにて完結です。ここまで、読んで頂きまして有難うございました。
また、第三章で、御会いしましょう。
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