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人生  作者: yoshi88
:1.17 第一章 始まりの物語
13/30

13.恩師

  家を出る前に先生の自宅周辺の地図は見ていたので、およその位置は把握していた。


 国道の大渋滞とは打って変わって、六甲の街並みは落ち着いた静寂の中にあった。倒壊しているマンションどころか、そんな戸建て住宅は一軒も無い。所々崩れた屋根瓦を応急処置しているブルーシートの屋根は見られるものの、それほど被害を受けたような感じはしない...。


 後で知ったが、山の麓を走る阪神電車やその周辺、更に線路の南側は震災による被害は深刻だったが、岩本先生の居る六甲山の中腹は比較的安全で活断層も神戸から淡路島へ伸びており、震源地であるにも関わらず九死に一生を得ていた。


 これまで悲惨な風景を散々見てきた僕達は、ほっとしたような少し拍子抜けしたような何とも言えない複雑な感情を抱えた状態で、取り敢えず先生の住む方へ自転車を走らせる。


 ――先生の自宅は直ぐに見つかった。お洒落な岩本先生から勝手妄想していた高層の分譲マンションではなく、普通の一般的なマンション、というより、築20年くらい経ってそうな白い吹付(ふきつけ)の壁面でエレベータも無い簡素な市営住宅だった。

 先生の自宅周辺も、


(...ここが本当にテレビで見た地震の震源地なのか?...。)


 と思われるほど全く被害を受けた気配がない。


 何の連絡もせず勝手に押しかけた僕達は急に現実に引き戻されたような気恥ずかしさに苛まれた。それでも此処まで来たのだからと、緊張しながらも玄関の呼び鈴を押し


「はーい」


 懐かしい声を聴いた後、自転車を止めた場所で先生が出てくるのを待った。


「どうしたん?」


 僕達の顔を見て少し戸惑いつつも先生が発した第一声は、何時もの懐かしい、何事にも動じないような安心感のある声だった。


 僕と中西は先生や先生のご家族が無事である事に安堵し、これまでの経緯を簡単に話した。先生にとってはあまり必要では無かったかもしてない大量の救援物資も先生は、


「助かる。近くの避難所に届けて大切に使わせてもらう」


 笑顔で言ってくれた。


 暫く近況を報告し、先生は中西がこれから小学校の先生になる事を喜んでいたが、僕が専門学校へ入学した事については、


「頑張って」


 短い言葉で励まされた...。


 先生と三人で話せたのはほんの15分くらいだったと思う。僕達は直ぐに元来た道を自宅へ向かって引き返した。


 ・・・それきり中西とは会っていない...。その後年賀状のやり取りや一緒に旅行に出かけた事もあったが、中西が高校3年生の同級生と結婚すると同時に疎遠となった...。


 一度中西と電話で話した時、同じクラスだった中西の奥さんが、


「私の事、覚えてる?」


 と言ったが、名前すら全く覚えていなかった。


 ・・・後日、先生から奇麗な達筆で御礼の書状と、何かの足しにと図書カードが入った手紙が届いた...。あれから先生と話してはいない...。


 阪神・淡路大震災から約2週間後、2月22日――。


 家族や友人を亡くし、傷つきこれからの未来に絶望した被災地で、ある一人の音楽教師が、教えを伴い避難所の学校校庭前で歌を歌う。


[出典:作詞・作曲 臼井真(うすいまこと)先生]



 しあわせ運べるように




 地震にも 負けない 強い心をもって

 亡くなった方々のぶんも

 毎日を 大切に 生きてゆこう


 傷ついた神戸を もとの姿にもどそう

 支えあう心と 明日への 希望を胸に


 響きわたれ ぼくたちの歌

 生まれ変わる 神戸のまちに

 届けたい わたしたちの歌

 しあわせ 運べるように



 ・・・子供達が通常使用するはずの学校を避難所として開放し、彼らの為に何かをしてあげなければならない、周囲の大人達自身がこの歌で励まされる。


 ・・・避難所では行内放送を通じて毎日「しあわせ運べるように」が流れた。


 ・・・「しあわせ運べるように」は成人式や、その後に発生した新潟県中越地震、東日本大震災の被災地でも歌い継がれてゆく...。

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