12.あなたのもとに(その3)
・・・劇の内容は「織田信長」――。
伝統なのか学校の演劇は"本気"で、先生もかなり気合いが漲っている...。
衣装は全て家庭科の先生が担当し、コスプレイヤーばりの本格的な鎧と甲冑に仕上がっていく。
殺陣の稽古の最中、隣のクラスの先生が、
「ここのシーンで刀で切りかかった時ジャンプして、舞台から観客の下に飛ぶのはどうかしら?」
と言い出した...。
出演者の一人が、
「僕は後方倒立回転跳びが出来ます。後方宙返りで後ろに逃げ回った後、舞台から下に消えますよ」
(...えっ?...。)
また別の先生が、
「だったら、下にマットを敷いたら?」
保健体育の女の先生も透かさず、
「火縄銃のシーンは運動会の空砲をバーン!と使いましょう!」
(...えっ?えっ?...。)
と、どんどん話が膨らみ、本格的になっていく。先生達の微笑が怖い...。
到底中学生が到達出来るレベルを遥かに超えて、NHKの大河ドラマ宛ら"大人の演劇"として、練りに練り上げられていった...。
僕は来る日も来る日も、「演劇と水泳」を続ける日々を送った。
・・・本番当日――。
劇の反響は凄まじく、詳細に作り込まれた時代劇セットや音響、観客の度肝を抜くような圧巻の演出で大成功を収めた。
劇で準主役を演じていた僕は、その日以来クラスの人気者となり、少しずつクラスに溶け込んでいった...。
冬にはこの学校でも恒例行事になっている「百人一首大会」では学年1位で表彰され、完全に皆の輪の中へ戻れた。
そして中学3年生になった時、父の仕事の都合で、――というよりも、気まぐれな両親は住み慣れた関西に戻りたいと考え、――元々住んでいた学校区内にまた引っ越す事になった。
まるで安っぽいアニメ映画のような急展開で、なんと僕は元居た中学校に"再転校"する事になったのだ!
(...この日本に僕みたいな奴が果たして何人いるのだろう・・・咲...。)
――”最初から学校の先生を全員知っている転入生”の僕は、異例ではあるが職員室でまず先生方に挨拶をする事になった...。
今までの自分を変えようと切に願っていた僕は最後に先生方の前でこう宣言した。
「この学校の生徒会長に立候補します!」
この時の僕は、
(...生徒会長になって咲にもう一度告白し、今度こそ付き合って中学生最後の1年間と、高校にも毎日一緒に通って、高校では絶対演劇部に入部する。・・・咲はきっと吹奏楽部だろう。そして、大学は神戸大学に進学して「ハチの巣座」に入団する...。)
と、甘い夢を想ていた...。




