第3話 観測される悪意
三人の凄絶な悲鳴は、強化ガラスに隔てられた外の世界には一欠片も漏れ出すことはなかった。防音加工を施されたカプセルは、ただ中で跳ね回る幼い肢体と、苦痛に歪む表情を無機質な「現象」として映し出すだけだ。
研究員たちは、モニターに映し出される波形を淡々と見守っていた。
「被検体01、出力定格 120% まで上昇。……よし、データ取得成功。魔力伝導率、予測値を大きく上回っています」
「02、03も安定。素晴らしい数値だ。これなら次のフェーズへ進めるな」
彼らが動かしているのはペンと端末であり、取っているのは命の重みではなく、冷徹な数値の記録だった。一度で終わるはずだった電流は、より精密なデータを求める研究員たちの好奇心と強欲によって、二度、三度と繰り返された。
「あ……が、ぁ……っ!!」
電流が走るたびに、ヒイロの視界は真っ白に塗りつぶされ、肺から空気が無理やり絞り出される。指先は痙攣し、喉は叫びすぎて枯れ果てていた。
隣のカプセルでは、ルナとイヴがぐったりと項垂れ、それでも電流が走るたびに、まるで死にかけた魚のように跳ねていた。
どれほどの時間が経っただろうか。
ようやく機械の駆動音が止まり、重いカプセルの蓋が開放された。
「……今日の分は終了だ。部屋に戻せ」
拘束を解かれた瞬間、三人は糸の切れた人形のように、床へと崩れ落ちた。
七歳の足には、もはや自分の体重を支える力など残っていない。全身の筋肉が小刻みに震え、皮膚からは焼けるような魔力の残滓が漂っていた。
研究員たちは、立ち上がることすらできない三人を、まるで荷物でも運ぶかのように乱暴に台車に乗せ、元の白い部屋へと運び込んだ。
「……っ、う……」
真っ白な部屋の冷たい床に、三人は放り込まれた。電子ロックの閉まる音が、死刑宣告のように冷たく響く。
ヒイロは、麻痺した指を必死に動かし、床を這ってルナとイヴの方へ近づこうとした。昨日の朝、あんなに威勢よく「逃げるんだ」と言った自分の拳が、今は小刻みに震えていて、床を掴むことすらままならない。
窓のない白い部屋に、三人の浅い呼吸と、押し殺したようなすすり泣きだけが、いつまでも虚しく反響していた。
それは、終わりのない地獄の序章に過ぎなかった。
どれほどの時間が過ぎたのか。手足の痺れがようやく治まり、自由に動けるようになった頃、再び電子ロックが外れる音が室内に響いた。
運び込まれたのは、昨日と変わらぬ色の薄い粥と、固いパン。それを見下ろす研究員の、歪な薄笑いだった。
「……動けるようになったか。次は、身体の測定だ」
その言葉に、ルナとイヴの肩が目に見えて跳ね上がった。全身を焼いたあの凄絶な電流の記憶が、彼女たちの心を凍りつかせている。怯える二人を嘲笑うかのように、研究員はわざとらしく肩をすくめて見せた。
「安心しろ。なーに、ただの身体測定だ。機械に乗るだけだ、痛みはないさ」
その言葉に含まれた明らかな侮蔑。ヒイロはふらつく足でなんとか立ち上がると、食事には目もくれず、研究員を睨みつける。だが、研究員はヒイロの怒りなど視界に入っていないかのように、手元の端末を操作しながら吐き捨てる。
「新しい服を用意してある。食事が終わったら、各自ロッカーから取り出して着替えておけ。すぐに行くからな、準備しておけよ」
研究員の足音が遠のくと、部屋には再び重苦しい静寂が訪れた。
「……ヒイロくん。また、痛いの、くるかな?」
ルナが泣きそうな顔で、ヒイロの服の裾をひっぱる。ヒイロは右腕のバーコードをかざして、自分のロッカーを開けた。そこには、真新しく無機質な、白い検査着が畳まれて置かれていた。
「……わからない」
ヒイロはム、服をぐいっと引っ張り出した。
「でも、あいつが笑ってるときは、嘘つきなんだ。……ご飯、食べな。お腹すいて動けなくなったら、逃げられなくなるぞ」
ヒイロはそう吐き捨てると、味のしないパンを口にぎゅうぎゅうに押し込んだ。恐怖で食事が喉を通らない二人の前で、ヒイロは自分の小さな手をぎゅっと握りしめる。七歳の小さな手はまだ少し震えていた、彼は一生懸命にそれを隠し、二人に背中で「大丈夫だ」と強がりを示し続けていた。




