13 悪魔の双子
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デーモンボーイズのリーダー2人は夜のダウンタウンを歩いてゆく。さすがに連日のレヴァナントの騒ぎで、道行く人はかなり減っている。いくら荒廃した町だとはいえ、ここまで寂れることになることなど2人は考えてもいなかった。
そんな中、2人が見つけたのは串刺しにされたトミーの遺体。地面には彼の血が血だまりを作っており、見るも無惨な状態だった。
そんな様子を見たシャルムは眉間にしわを寄せた。
「殺されたのか……」
シャルムは呟いた。
トミーと連絡がつかなかったことから、シャルムも彼の死覚悟をしていた。だが、いざ彼の遺体を目にするとなればシャルムの心を打つものがあった。トミーが信用できない人物だったとしても、彼がデーモンボーイズの一員であり、シャルムの兄弟であることには変わりないのだから。
シャルムは表情には出していないものの、ひどく動揺していた。
エリオットはここにはいないが、トミーとの行動の多さもあって、どこかで殺されている可能性もある。
「そうみてえだな。エリオットともども、俺たちは強いと思っていたんだがな。それを上回る敵がいたってことだろ」
シャルムとは対照的に、ダニエルは至って冷静だった。
強いものが弱いものを淘汰して生き残る。それが当然のことなのだ、と考えるダニエルだから冷静でいられた。
さらに2人は路地に入り、隣の通りに出る。ここでも戦った形跡が見られ、2人から少し離れたところには焼け爛れた遺体が転がっていた。
焼け落ちた服にはかろうじて黒と蛍光グリーンの部分が残っており、それがデーモンボーイズのものであることをしめしていた。極めつけは、赤い毛髪の残骸。
やはりエリオットも殺されていた。
「エリオット……」
シャルムは思わず声を漏らす。
今朝、アジトから出て行ったときに「必ず戻ってくる」と言っていたエリオットはすでに死体になっていた。無惨な姿にするほどの力を持った人物と戦ったのだろう。
相手は誰か。タリスマン支部の人間か。シャルムの中に後悔と憎悪が募る。こんなはずではなかったのに。
「わかってるだろ、シャルム。話しかけたところでこいつは生き返らねえ。俺たちは残り4人にまで減らされたんだよ。ボス含めて5人だがな」
「ああ……」
シャルムの口からはこれ以上、言葉も出ない。
兄弟は次々に殺されていった。残るはシャルムとダニエル、メルヴィンとダリル、そしてボス――ジェシー・インソムニアの4人。シャルムは心の奥で絶望していた。
その傍らで、ダニエルは何かを感じ取っていたようだ。
「気を付けろよ、シャルム。ただでさえ暗くて周りがよく見えねえ。どこから何が襲ってきてもおかしくねえ」
と、ダニエルは言う。
彼は「おかしくない」と言っていたが、すでにその敵の襲来には気づいていた。ダウンタウンの通りの両側から、2人を挟むように襲い来るレヴァナント。
ダニエルにはそれが見えていた。
彼は自身の目ではない場所――半径20メートルの範囲での出来事を視覚としてとらえることができる。襲来に気づいたのも、その力だ。
「シャルム、アンデッドが来る!」
ダニエルは声をあげる。
シャルムは頷くとイデアを展開する。彼の周りに展開されたのは、白い霧。ダニエルは展開された霧を見て、彼の意図をそれとなく把握した。
「手分けしてやるぜ。俺たちは生き残らなきゃならねえ。散っていった兄弟のためにもな」
「ああ……」
シャルムの返事を聞き、ダニエルはアジトから持ち出した刀を抜いた。
――見えてんだよォ!
襲い掛かるレヴァナントを躱し、その首を斬り落とす。
まずは一つ、レヴァナントの首が地面に転がった。ダニエルはそれで勢いがついたのか、次々とレヴァナントの首を落とす。
建物の壁にレヴァナントの血がかかる。
「アンデッドで押す必要はねえぜ、黒幕さんよォ! アンデッドを作り出してる本人からかかってこいよ」
血濡れの刀を振るいながらダニエルは叫ぶ。彼の周りにはレヴァナントの残骸――首を落とされた人間たちの死体が転がっていた。
ダニエルの咆哮はダウンタウンにこだまする。その声を聞く者は共に戦っているシャルムに限らず――
「へえ、デーモンボーイズのリーダーも威勢がいいじゃねえの。そいつらを全滅させられるほど強ければ俺が相手してやる。さすがに支部長に直接会わせるわけにはいかないんでな」
5階建ての建物の屋上。そこから下の様子を見ていたのはジェラルドだった。彼はレヴァナントを次々と斃してゆくシャルムとダニエルを見て、にやりと笑った。
ジェラルドはすでに得物――鍵と刃物が合わさったようなものを手にしていた。
「待ってろ、悪魔の双子。じきに俺が地獄に落としてやる」
ジェラルドはそう言って、ダニエルの方を見た。
もしジェラルドやその上司であるトロイに間違いがあったとすれば、けしかけるレヴァナントの数だろう。ダニエルに多くをぶつけるべきだった。
同じ頃、ダウンタウンの通りではダニエルが最後のレヴァナントまで斃していた。
返り血は最小限。だが、彼の持つ刀は赤黒い異臭を放つ血で染まっていた。
反対側はどうなっているのだろう、とダニエルはシャルムの方を見た。かなり離れているものの、シャルムは未だにレヴァナントと戦っていた。どうやら数はあまり減らせていないらしい。
ダニエルはシャルムに手を貸そうと走り出すが――
「おい、待てよ。お前の相手は俺だ。アンデッドじゃねえ」
ダニエルの後ろ。イデアを展開していたジェラルドがビルから飛び降りてきた。
「は……? お前、黒幕か?」
ダニエルは振り向きざまに言った。
「違うな。そもそも黒幕だ? 俺たちが悪いようによく言ったものだぜ。悪いのはお前たちなのになあ?」
と、ジェラルドは言う。
「黙れ。俺たちの事情も知らないヤツに何が言えたことかよ? 偽善か? いや、お前って親から虐待を受けることもなく平凡でエリートになるために生きてきたんだろ」
対するダニエルも言った。
その言葉は、ジェラルドや鮮血の夜明団の人間に対しての怨嗟だった。まともに生きることも許されず、ストリート・ギャングのようになるか、死ぬか。そのどちらかしか許されなかったダニエルは怒りを露わにしていた。
「悪に落ちるしかなかった俺たちが生きる手段を探して何が悪い! 俺たちがこうなる原因を作ったのはてめえらなんだよ!」
ダニエルはそう言ってジェラルドの懐に飛び込んだ。
できるのならここで殺したい。憎き相手のひとりをここで殺せるのならば、どうなろうとかまわない。ダニエルは特攻する兵士のようだった。
「おうおう、わかったぜ。やっぱり俺とお前、分かり合えないんだな。人種だって違うからな」
ジェラルドは自身が持っていた得物で刀を受け止めた。金属音が夜のダウンタウンに響く。
2人の戦いは避けられない。




