14 わかり合うこともない
鍵と刀がぶつかり合った後、二人は一度飛び退いた。
ダウンタウンにて睨み合うのは二つの勢力の強者。片やストリート・ギャングを何人も葬ったトロイの親衛隊の男。片やストリート・ギャングのリーダー。
ジェラルドはダニエルの心臓を切り開かんと距離を詰め、得物を振るう。
鍵の形をした得物で切り裂いたものは、生物であろうとそうでないものであろうと切り開く。扱い方次第では人を殺すなどは容易い。
「当たり所が悪けりゃ、お前の心臓から血液が噴き出すぜ」
「やってみろよ。お前のご自慢の能力ってヤツをよ!」
詰め寄るジェラルド。彼を目の前にして、ダニエルは殺意を駆り立てる一言を放つ。
何か意図があるようだが、ジェラルドはあえてそれに乗った。得物をダニエルの心臓に突き立てんと。ジェラルドは得物を振りかざす。
すると、ダニエルは初めからそれを見切っていたかのように避け――
ジェラルドの得物に飛び乗るダニエル。ダニエルはさらに跳び上がり、ジェラルドの完全な死角に回り込む。
狙うは、首。ジェラルドの後ろで紫色のポニーテールが揺れ動く。
「――後ろか!」
ジェラルドは向き直り、ダニエルが振り下ろす刀を得物で受け止めた。
互いの腕、体に伝わる衝撃。ジェラルドは力任せにダニエルの刀を振り払う。純粋な膂力ではジェラルドが勝っていたのか、ダニエルは吹っ飛ばされた。
ダニエルはそのまま向かいの空き店舗の窓ガラスを突き破る。これで無傷というわけにはいかないだろう。
「ざまぁないな。これでデーモンボーイズのリーダーというからなぁ。程度が――」
ジェラルドはほんの少しの余裕を見せていた。だが、直後。余裕などないことに気付く。
迫るのは殺気。場所は――
「なるほど、上か。仲間でもいたのか……!」
ジェラルドはその身を翻し、上からの攻撃を得物で受け止めた。
暗い中での戦い。街灯に照らされた顔が示していたものは――
「仲間はてめぇらに殺された。ここにいるのは俺一人だけなんだよ!」
ダニエルの声。ジェラルドの体に伝わる衝撃。その衝撃は先ほどのものよりも、強い。そして、衝撃の先にあるのは怨嗟。ダニエルは仲間――兄弟を殺されたことによる悲しみと怒りをぶつけようとしていた。
ジェラルドはバランスを崩し、のけぞった。それに伴い、空を切るダニエルの刀。だが、依然としてダニエルが優勢。
ジェラルドは得物を消し、自身の脚に力を集中させて跳び上がった。場所が変われば、と考えたのだろう。
「お前らの事情はわかった。それとこれとは別だがな。いいか? 俺たちは絶対にわかり合うこともない」
建物の屋根に着地しながらジェラルドは言う。
再び彼は得物を手にし、ダニエルを待つ。
「来いよ。俺を殺したいんだろ?」
と、ジェラルド。
すると――
「わかった、俺もあえて乗ってやる。てめぇの言うことがやっすい挑発だってわかっているがな!」
ダニエルの声がジェラルドの耳に近くなる。ジェラルドの読み通り、ダニエルはジェラルドのすぐ近くに現れる。だが、読みと違うところがあるとすればダニエルが現れた場所だ。ダニエルはジェラルドの死角に現れたのだ。
――ヤツは俺の死角ばかり狙ってきやがる。癖があるにしても、どうしてここまで的確に入り込める!?
ジェラルドの脳内で思考と感情が錯綜する。そんな間にダニエルは刀を振り抜いた。ジェラルドはその手に得物を持ち直して受け止める。
「くそっ……どんな能力だ!」
ジェラルドは声を漏らす。
ダニエルが瞬間移動という能力を使っていることはわかった。だが、ジェラルドにはまだその攻略方法がわからない。
「言わなきゃわからねえの? それで俺たちの兄弟を殺して回っていたなんてよ」
ダニエルの刀がジェラルドの腹部をかすめた。
「くそ……」
「せめて、お前が殺してきたやつらのことを想いながら――」
このとき、ダニエルは目を見開いた。
ジェラルドが苦し紛れに繰り出す斬撃。それもまた、ダニエルの脇腹をかすめ――
ダニエルが感じたのは痛み。そして、体内の組織が外気に触れるような感覚。傷が直接服に触れている。
目を向けて初めて自覚した、己につけられた傷。ほんの少しの範囲ではあるが、手術されたかのように切り開かれ、肋骨が見えている。
「この野郎……」
ダニエルは吐き捨てるように言った。
「降りるなら今のうちだぜ。俺の後ろにはまだ会長もいる。俺と同じだけの力を持ったヤツだっている。俺1人討ち取れねえお前が、他を相手してどうにかなるかよ。なあ?」
勢いづたジェラルド。彼は逆にダニエルを挑発した。彼なら乗るだろう、と。
そんなとき、ダニエルの姿が消えた。すぐにどこかに姿を現すのだろう。ジェラルドはそう確信していた。だが――
ダニエルは姿を現さない。それどころか、彼の気配も消えた。ダウンタウンに残されたのはレヴァナントの残骸とジェラルドのみ。先ほどまでレヴァナントと戦っていたシャルムも姿を消している。
「逃げやがったか……いや、降りたか?」
と、ジェラルドは呟く。
すでに敵はいない。だが、ダニエルの目的はジェラルドと戦うことだったわけではない。
「まさか」、とジェラルドは彼にとって最悪の事態を想像した。
「タリスマン支部にいるのなら……」
ジェラルドは慌てて携帯端末を取り出し、タリスマン支部にいるはずのトロイに電話をかけた。
――頼む、出てくれ。そっちはどうなっている!? トウヤもイザベラも出払っているはずだ……!
虚しく響くコール音。トロイが電話に出る様子もなく、時間だけが過ぎてゆく。
『ただいま電話に出ることができません』




