08.ログハウスのお礼にジャガイモ
コロポックルが生み出し、大工の精霊たちが丹精込めて作り上げた、見事なログハウス。
レティシアたちは今夜、その中で一泊することになった。……驚くべきことに、このログハウスには、なんと湯沸かしの魔道具まで完備されていたのである。
「お風呂まで入れるなんて、素晴らしいですわ!」
「……魔道具まで自作してしまうというのか。本当にすごいな、精霊という奴は」
大工の精霊達は、ドヤ顔で小さな腕を組み、ふんぞり返っている。
レティシアにははっきりと視えているが、ルークには彼らの姿は見えていない。
「しかしこいつら、さっき帰っていなかったか? すぐ戻ってきたような……」
大工の精霊たちは気まずそうに目線を逸らし、唇を尖らせて口元を拭うような素振りを見せた。
「まあまあ、いいじゃありませんか。ありがとう、みんな」
「まあな。この過酷な時期に野宿など、それこそ自殺行為だったからな……」
精霊達は再びドヤ顔になり、得意げに胸を張っている。その状況をレティシアが伝えると、ルークの額にはピキッと青筋が浮かんでいた。
『くるるん♪』
「コロポックル様はどうやら、お前をいたく気に入られたようだな」
レティシアの肩の上には、大妖精であるコロポックルがちょこんと乗っかっている。すりすりと、愛らしく頬擦りを繰り返していた。
「可愛い〜♡」
レティシアがくりくり、とコロポックルの柔らかな頬を指で突く。
コロポックルは嬉しそうに目を細めていた。
「…………」
そんな心温まる様子を、ルークはじっと見つめている。
「どうなさいましたか、ルーク?」
「……別に、可愛いとか思ったわけではない。断じてな!」
「はぁ……」
(何を仰っているのかしら、急に……)
レティシアは今に至るまで、恋愛らしい恋愛というものを経験してこなかった。
また、前世でも恋愛小説や漫画といった類のものにあまり触れてこなかったのだ。
だからこそ、レティシアは男の『ツンデレ』という概念を、全く理解できていないのである。
精霊達は呆れたように、やれやれと首を横に振っていた。
ルークはどかっと、大きなソファに腰を下ろした。
「……あらためて見ても、木材から一瞬でこんなソファまで作れるとはな。本当にできるんだな」
同じくレティシアもまたソファに腰をかけると、膝の上や肩、頭の上に、精霊達がわらわらと乗っかってくる。
「精霊さんは、本当に凄いですからね」
レティシアに褒められた精霊達は、きゃっほーい、と両手をあげたり、見事なバク転を披露したりして、全身で喜びをあらわにしている。
コロポックルはふわふわと宙に浮いて、レティシアの膝の上という一番いいポジションを陣取った。
「そういえば、ここってどのあたりになりますの? ルークが住んでおられる場所までは、あとどれくらいですの?」
「……お前、何も知らされずに嫁いできたのか?」
「ええ。何の説明もないまま、無理やり放り出されましたので」
まあ、元より自由が欲しかった彼女からすれば、それほど怒るようなことでもなかった。
だが、ルークはひどく険しい表情をしている。
精霊達はその迫力にびびって、レティシアの後ろに隠れてしまった。
「ルーク。どうなさいましたの。精霊達を威嚇なんてなさって」
「……違う」
「では、何にお怒りなのですか?」
「……別に」
それ以上、ルークは口を開こうとはしなかった。むすっとした表情のまま、腕を組んで黙り込んでいる。
(まったく、本当にルークは、ご飯の時以外は無口なのですから)
だが、彼がそういう不器用な特性なのだと思うと、特に不快感は湧かなかった。
「えーっと、それで、私たちはこれから何処へ向かえば……」
すると、いつの間にか精霊が、レティシアの目の前にホログラムのようなものを投影した。
それは、上空から見下ろした精巧な地図のようであった。
「エッゾの地図……だと!?」
これにはルークも驚きを隠せず、ホログラム地図に顔を近づける。
「どうなっているのだ、これは!?」
「測量の精霊さんと、光の精霊さんのコラボレーションでしょうね」
二匹の精霊が「ハーイ」と誇らしげに手を挙げていた。
頭上に作り出された立体地図を前にして、ルークは深くため息をつく。
「……これほどまでに正確な地図など、どこの市場にも売っていないぞ」
「そうでしょうとも。この子達がわざわざ、私たちのために作ってくれたんですもの。ありがとうね」
いえいえ、と二匹が照れている。ルークは地図の一点を指差した。
「我らが今いるのは、ここだ。【ウスケシ】という港町から北へ向かったところだな」
「ウスケシ……」
そういえば、途中まで船を使ってこの地までやってきたことを、レティシアは思い出す。
ウスケシから歩いて、北へ向かって登ってきたところらしい。
「ここからさらに北へ向かい、【サッ・ポロ】を目指す。ここが、俺たちの目指す場所であり、エッゾの皇都だ」
「……札幌?」
「サッ・ポロだ」
(うーん、そういえばこのエッゾっていう場所、現実の北海道をベースにして作られている設定だったわね)
改めて、レティシアは地図をまじまじと見る。ウスケシとは、現実でいうところの函館にあたる場所のようだった。
そこから、札幌へ向かっている途中ということらしい。
「ルークは歩きで、サッ・ポロからウスケシまでいらしたの? お一人で」
「お前を出迎えるために、馬車でやってきた」
「……その馬車は?」
「置いてきた」
「さいですか……」
(置いてきたって、どうして……? もう、肝心なところは全然しゃべってくれないんだから)
とりあえず、エッゾの皇家は、第三皇子であるルークの嫁のために、迎えの者を寄越してくれていたようだった。
「お迎えの方と合流するべきではありませんか? 歩きでサッ・ポロまで行くのは、さすがに無理がありますよ」
ゲームをやりこんでいたレティシアは、エッゾの国土の大きさが、現実の北海道とほぼ同じであることを知っている。
函館から札幌までの長大な道のりを、徒歩で歩き抜くのは流石に現実的ではない。
現在は止んでいるとはいえ、膝上まで雪も積もっているのだ。
「わかっている」
「わかっているって……じゃあ、どうなさるおつもりですか? おんぶでもしてくださるんですか?」
「ば、ばか! 誰がそんなことをするか。ヒュースのやつが、そのうち迎えにくるはずだ」
「ヒュース……?」
聞いたことのない名前が出てきたので、聞き返す。
「エッゾの副騎士団長であり、……俺の見張り番だ」
「……見張り、ですか?」
「ああ。狂犬である俺が、人を食い殺さないようにと見張る役割のことだ」
「…………」
ルークはひどく自虐的に笑う。レティシアは、ルークが決してところ構わず噛み付くような犬ではないことを、すでに深く理解している。
だが、他人はそうは思っていないらしい。
手のつけようのない、狂犬。それが暴れないようにと、お目付け役をつけているのだそうだ。
「……なんだか、普通に腹が立ちますわね。ご自分がそんな犬扱いされるなんて」
すでにレティシアは、ルークに対して「狂犬皇子」とも、そして「犬」とも思っていなかった。
ルークという、ひどく無愛想だが、しかし誰よりも優しい男性として認識している。だからこそ、周りが彼のことをそんなふうに扱っていることが、無性にムカついたのである。
ルークは少し目を丸くして、ふんっ、と短く鼻を鳴らした。
「慣れている」
「いや、でも……」
「いいのだ」
「……まあ、あなたがいいと仰るなら、いいですけれど」
ともあれ、そのヒュースなる人物が、いずれここへやってくるという。
「ヒュースさん? をお待ちする感じでよろしいのですね」
「ああ。ヒュースのやつから、『迷子になったら下手に動くな』と言われているからな」
「ふぅん……でも、どうやって向こうはルークを見つけるのでしょう」
「知らん。だが、やつは加護持ちだ。俺がどこにいようと、立ち所に俺を見つけ出してくるだろう」
(なるほど……探索者とか、そういった対象を見つけ出す加護を持っているのね。なら……ここで待っていて大丈夫かしら)
ルークはソファからすくっと立ち上がると、無言でログハウスから出ていこうとする。
「もうヒュースさんがいらしたのですか?」
「違う」
「では、どちらへ?」
「……別にお前には関係ない」
「もう、関係ないじゃなくて、きちんと言葉を尽くしてくださらないと……いっちゃいましたわ」
ドアを開けて、ルークが出ていく。その手には、しっかりと長剣が握られていた。
窓から外を見ると、ルークの背中は薄暗い森の中へと消えていく。
「一体どこへ行かれたのでしょうね」
さぁ、と精霊達が揃って首を傾げる。
「って、あれ? コロポックルさんは?」
気づけば、コロポックルもどこかへ行ってしまっていたのだ。
精霊がふらっと姿を消すのは日常茶飯事である。
コロポックルはどこへいったのかと、レティシアが外へ出た瞬間、ある異変に気づく。
「なんと、まぁ……」
『くるるん! くりゅくりゅ!』
ログハウスの隣の雪原に、なんと立派な畑が出現していたのである。
畑からは、青々とした緑色の植物が生い茂っていた。
「これ、あなたがやったの?」
こくん、とコロポックルが力強く頷く。精霊達は、わっ、と畑へと殺到し、植物の茎を力いっぱい引っこ抜いた。
「! これって……」
茎の根元にくっついていたのは、ごろっとした、見事な……。
「ジャガイモじゃあない!」
手のひらから溢れるくらいの、それはそれは立派で大きなジャガイモだった。
この畑には、これがいくつも埋まっていることになる。
「どうして……」
きゅうう、と可愛らしい音が、コロポックルのお腹から聞こえてきた。
彼女は顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにお腹を抑えている。
「なるほど、あなた、またお腹がすいてしまったのね。だから、ジャガイモをお作りになったと」
『くるるん♪』
(それにしても、コロポックルって本当にすごいわね。ゼロから、こんな見事な植物を作っちゃうなんて……さすがは大地の神と崇められる存在ですわ)
精霊達が、コロポックルに向かって拍手喝采を送っていた。精霊たちも不思議な現象を起こすことはできるが、ここまでの規模の命を、ゼロから創り出すことはできない。
神の御業とも呼ぶべき力が、コロポックルには宿っているのだろう。
「せっかく作ってくださったことですし、ルークのためにも、とびきりのジャガイモ料理を作ってあげるとしますか」
『くるるー!』
精霊達も、コロポックルも、万歳するように両手をあげて喜びをあらわにする。
「ジャガイモかぁ、何を作ろうかなぁ……」
引っこ抜いた大量のジャガイモを抱え、レティシアはログハウスの中へと戻ってくる。
なんとこのログハウス、キッチンまでもが完璧に完備されているではないか。
「お水が出る水道に、火の出るコンロまで……魔道具さまさまね」
現代日本とは違い、こちらの世界では、魔法の力が生活インフラを支えている。
魔道具という、魔法の現象をいつでも起こせる便利な道具が存在するのだ。
このログハウスには、ひねれば水が出る魔導水道、同じく火が出る魔導コンロが設備されている。
さらには、鉄の精霊が丹精込めて加工した鍋や、切れ味鋭い包丁まで揃えられていた。
「あとは、アレさえあれば……」
いそいそと、新しい精霊が登場し、レティシアの欲していた【あれ】とやらを恭しく差し出してくる。
「本当に用意周到なことね」
てへへ、と照れる精霊の頭を、レティシアが優しく撫でる。
あれの入ったボトル、重厚な鍋、そして……エッゾの大地が生んだ、極上のジャガイモ。
「よし! 早速作るよ!」
【作者からお願いがあります】
少しでも、
「面白い!」
「続きが気になる!」
「更新がんばれ、応援してる!」
と思っていただけましたら、
広告の下↓にある【☆☆☆☆☆】をタップして、
【★★★★★】にしてくださると嬉しいです!
皆様の応援が、作品を書く最高の原動力になります!
なにとぞ、ご協力お願いします!




