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21.精霊の恩返し

【☆★おしらせ★☆】


あとがきに、

とても大切なお知らせが書いてあります。


最後まで読んでくださると嬉しいです。

 レティシアはパンケーキを何十枚と焼きまくり、お腹を空かせていた精霊達はそれをたらふく食べて、大変満足したようだった。


 みんなテーブルの上や地面にぺたんと座り込み、まんまると太った小さなお腹をぽんぽんとさすっている。


「みんなー、満足しましたー?」


『いえーい!』と、レティシアの呼びかけに元気よく答える精霊とコロポックル達。


「……彼女は、大自然の神の使いか何かなのだろうか?」


 その信じられない光景をまじまじと見つめながら、カーティスがぽつりと呟いた。するとルークは、「ふんっ。何を言うのです、兄上」と少し不機嫌そうに腕を組む。


「あれは、俺の嫁に決まっているだろうが」


「ふぅん……」


「……なんだ」


 カーティスがニヤニヤと悪戯っぽく笑っている。その視線がなんだか気恥ずかしくて、ルークはそっぽを向いて目を逸らした。


 やがて、精霊達は満足そうに立ち上がると、レティシアの手にハイタッチをして次々と自然の中へ帰って行く。

 中には名残惜しそうにその場に残る者もいたが、大半は満足して帰っていった。さっきまで離れの中は精霊でひしめき合っていたのだが、今はすっかりと落ち着きを取り戻している。


「ふぅ〜」


 レティシアは肩を回しながら、椅子に深く腰を下ろした。


「無理をしすぎだ」


 と、ルークがぶっきらぼうに声をかける。


「全然。だって、お料理は楽しかったですしっ!」


「しかし、何十枚も飯を作るのはそれなりに体力がいるだろうが。体を壊されては……俺が困る」


「困る? どうしてルークが困るんですの?」


 きょとんとするレティシア。ルークは、自分の不器用な心配をなんと言っていいのかわからず、ガシガシと頭を掻く。

 見かねたカーティスが、苦笑しながら助け舟を出した。


「僕もルークと同じ意見だよ。君はもう、僕らの大切な家族なんだから。家族が怪我をしたり、病気をして倒れたりしたら、嫌だろう?」


「ああ、なるほどっ。そうですね……ごめんなさい、ルーク。ご心配をおかけして」


 カーティスの的確な助言により、ルークの本当に言いたいことが伝わったようだった。

 レティシアは「えへへ♡」と嬉しそうにはにかんでいる。


「あ、でも大丈夫ですっ。私……体だけはめっちゃ元気ですのでっ!」


 レティシアは両腕を曲げて、力こぶを作ってみせる。華奢な細腕なので、特段腕を曲げたところで筋肉が隆起したようには全く見えない……。


 だが、確かに、あれだけの大量の料理を休むことなく作り続けたというのに、レティシアの表情には疲労の色がまったく見えなかった。


 それどころか、むしろ元気いっぱいで生き生きとしているようにすら見える。


「…………」


 魔力の響きを音で感じ取ることができるルークの耳には、今、レティシアの小さな体から発せられる凄まじい量の『魔力』が明確に感じ取れていた。


 彼女は、魔力ゼロ者のはずなのに、である。


「おい、ルーク。いるか?」

「姉上」「アリエッタお義姉様っ!」


 そこへ、ルークの姉であるアリエッタが、突然離れへとやってきたのである。


「カーティス兄上まで、こんなところで何をやっているんだ?」

「まあ、ちょっと朝食のご相伴にね。アリエッタこそ何を? 確か、魔物狩りの遠征に、治療班のトップとして同行していたはずだろう?」


「ああ。そこで、思わぬ大物を倒してな。運ぶのを手伝え」


 ルークは無言で頷き、アリエッタと共に外に出る。レティシアもまた、「大物」という獲物に興味津々なのか、トテトテと後ろについていった。


 ほどなくして、一行はサッ・ポロの街の郊外へと到着した。


「わぁっ! おっきーい! 黒猪《ブラック・ボア》ですね!」


 文字通り、真っ黒な剛毛に覆われた巨大な猪だ。ただし、この試される厳しい大地・オゼの環境によって独自に進化した……特大サイズの猪である。


 ルークの身長の三倍はあろうかという、見上げるほどの大きさだ。どうやらこれが、今日の遠征の獲物のようである。


「これだけたくさんの豚肉があれば、美味しい豚肉料理がっ、たくさん作れますわっ!」

 

 レティシアは目をキラキラと輝かせ、巨大な黒猪を極上の食材として見つめている。一方で、ルークは周囲の惨状を見てぽつりと呟いた。


「姉上……いくらなんでも、倒しすぎでは?」


「てっきり一匹だけだと思ったけれど、まさか十匹以上も群れで転がっているとはね……」


 カーティスたちも唖然として周りを見渡す。雪原のあちこちに、巨大な黒猪が小山のように倒れているのだ。

 この魔物は、オゼの基準で言えばAランク相当の危険な魔物だ。熟練の騎士団でも、一体倒すのにかなり手こずるはずである。


「一体どうやって、こんなに大量のAランクを倒したんだい?」

「俺が手を貸したのだ」

「ウヒュイ殿!?」


 カーティスの前に、音もなくエミシの戦士であるウヒュイが姿を現したのである。

 先日、オタ・ルの街での会合に参加し、レティシアの料理で和睦を結んだエミシの民の族長だ。


「なるほど……オゼの騎士団と、エミシの民が力を合わせたのか……。だからこそ、短時間でこれだけの魔物を狩れたというわけだね……」


 と、カーティスが深く納得する。

 レティシアは「すごいすごいっ!」と無邪気にウヒュイ達の戦果を褒め称えている。


 ……ルークはそれを見て、ひそかに少々イラッとした。

 すすす、とルークが無言でレティシアの側へ寄り添う。


「俺だって、この程度の魔物なら一人でこれくらい倒せる」

「? そうですわね。ルークはとっても強いですから」


「ふん……」


 カーティスとアリエッタは、そんな弟の露骨な対抗心を、生温かい目で見守っていた。


「なんだっ。二人とも、人の顔を見て」

「「いや別に」」


 さて。

 倒すのは見事だが、今度はこの十匹以上もの巨大な黒猪を、城の解体場まで運ぶ必要が出てきたわけだ。


「俺の腕力でやっと、一匹担げるかどうか、といったところだな」


 エミシのウヒュイたちは確かに高い戦闘力を誇るが、純粋な腕力という点においては、魔力ゼロのギフテッドであるルークには及ばない。

 十匹以上いる黒猪をすべて運ぶとなると、ルークが一人で十往復ほど、街の内外を行き来して運搬する必要があった。


「そんなの、ルークが運ばなくても大丈夫ですよ」

「レティシア……?」


 レティシアは、事も無げに巨大な黒猪の足首を掴むと……。


「あらよっと!」


 ひょいっ、と。

 まるで道端の小石でも持ち上げるかのような軽さで、レティシアはその規格外の巨大猪を片手でふわりと持ち上げたのだ。


「「「は……!?」」」


 ……これには凄腕の戦士であるウヒュイも、そしてルークすらも、完全に言葉を失い驚きを禁じ得なかった。


「よっ、ほっ、よっと」


 レティシアが、手の上に乗せた猪の上に、次々と別の猪を積み重ねていく。片手で五体、つまり両手で十体の巨大猪を、絶妙なバランスで持ち上げているのだ。


「ま、待て待て! なんだその怪力はっ! いくらなんでも物理的におかしいだろうっ!」


 魔力ゼロ者は、その代償として天与のギフテッドが発現する。だが、レティシアはルークとは違い、魔力ゼロによる『怪力』の恩恵は発揮できないはずだったのだ。


「あ、これは精霊さんたちが力を貸してくれているんですの。ほら、先ほどの美味しいパンケーキのお礼だそうですわ」


 ……ルークは、己の優れた耳を澄ませる。

 ゴォオオオォオオオオ! と、まるで猛烈なブリザードのような、激しい魔力の奔流の音が、レティシアから凄まじい勢いで感じ取れていた。


 どうやら、彼女の細い体からは、目に見えない無数の精霊たちが発する尋常じゃない魔力が立ち上っているらしい。それが、彼女に一時的な神がかった怪力を与えているのだ。


「少しバランスが悪いですね。そりがあると運ぶのが楽なのですけれど……」


 彼女がそう呟いた、次の瞬間。


 えっほ、えっほ、えっほ……。


「な、なんだこの奇妙な音は……?」


 遠くの雪原から、何かが滑るように近づいてきた。

 それはもう、木材で頑丈に組まれた立派な『特大のそり』が、何もない雪の上を勝手に滑ってこちらへとやってきたのである。


「なぜ、そりが勝手に動いてくるんだい!?」


 と、カーティスが目をひん剥く。


「あ、精霊さん。え、これもパンケーキのお駄賃ですか? ありがとうっ。とっても助かりますわ〜!」


 ……どうやら精霊たちが、パンケーキの駄賃にと、どこかの木材を瞬時に加工し、この立派なそりを作って持ってきたようだった。

 レティシアは持ち上げていた十匹の猪を、そりの上へまとめて乗せる。


 どさっ!!

 凄まじい地響きが雪原を揺らした。


「じゃあ、皆様、城へ帰りましょうねー!」


 ずばばばばばばっ!!

 と、レティシアは十匹の巨大猪を乗せた特大そりの紐を引き、信じられないほどの猛スピードで雪原を走っていく。


「る、ルーク……いくらそりを使ったとしても、君の腕力であれだけの数を一度に引っ張っていけるかい……?」


 カーティスの引き攣った問いかけに、ルークは無言で首を振る。


「だよね……」

「うむ。レティシアはやはり見事だな」


 と、アリエッタが腕を組み、レティシアの背中を素直に評価する。


「いや、アリエッタ! あれは絶対におかしいでしょ!? なにあの理不尽な怪力! それに、欲しいと思ったものを精霊が瞬時に作って持ってくる? そんなの、魔法学会の連中が知ったら、間違いなく腰を抜かすほどの大事件だよ!?」


「だろうな。だが、それを何食わぬ顔で平然とやってのける。それが……レティシアだ」


 アリエッタはこの規格外の事実を、今やすっかりすんなりと受け入れているようだ。カーティスは「僕の常識が……」と頭を抱えている。


 ルークは……。


「…………」


 その光景を見つめながら、心の奥底で少しだけ、寂しさを覚えていた。

 妻が凄すぎるのは誇らしい。だが……自分は彼女の夫なのだから。もっと、自分に頼って甘えて欲しいと、不器用な彼はそう思っているからだ。



【おしらせ】

※9/19(土)


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