19.ジンギスカンの〆は、うどん!
【☆★おしらせ★☆】
あとがきに、
とても大切なお知らせが書いてあります。
最後まで読んでくださると嬉しいです。
オタ・ルの街にある、海風を防ぐ頑丈な石造りの倉庫。
そこが、今回のエミシとの会談場所に指定されていた場所だった。
倉庫の中には、エミシ、エッゾの民達がいた。
「全く……肝を冷やしたよ。ひどく心配させないでおくれよ、二人とも」
倉庫の中で無事を確認し合い、第一皇子カーティスは安堵の大きなため息をついた。
彼の周囲には、ウヒュイをはじめとした何人ものエミシの戦士たちが立ち並んでいる。
「どういうことだ、兄上。エミシの者たちに囚われていたわけではないのか?」
ルークが訝しげに尋ねると、カーティスは首を横に振った。
「違うさ。この人たちは、ずっと僕を守ってくれていたんだよ」
「守っていた……?」
「ああ。あの氷竜が突如として街を覆う結界を作った時、運悪く、結界の内側に数体の凶悪な魔物が迷い込んでしまってね」
カーティスは苦笑しながらウヒュイたちを見やった。
「彼らが身を挺して、魔物から僕を護衛してくれていたんだ」
「我らはただ、理性のない悪神を倒しただけだ」
ウヒュイは腕を組み、そっけなく答える。
「僕はエミシとの共存を謳い、手を取り合おうと提案した。でも、彼らはどうしてもエッゾの人間を信じてくれなくてね。交渉は完全に平行線で、魔物に囲まれ孤立無援……正直、どうなることかと思っていたよ」
長年の迫害の歴史があるのだ。言葉だけで共存を謳っても、エミシの民が信じられないのは当然であった。
――レティシアたちが、あの『食卓』をもたらすまでは。
「というか! おまえたち! アリエッタとルーク!」
カーティスは弟妹らに声を荒らげる。
「何を考えてるんだっ。か弱いお嬢さん……レティシアさんを連れてくるなんて! どうかしてる!」
「レティシアがついて行くと言い出したのだが……」
「だとしても! 外は魔物がいるし、寒い。君たちみたいな体も心も鋼で出て着るような人間じゃないんだから! 風邪引いたらどうするんだよっ。もうっ!」
ふっ……とアリエッタとルークが鼻で笑う。
「この女が風邪なんぞで寝込むわけがなかろうが」
「レティシアは強い女だ」
「それはおまえたちの勝手な感想だろうがっ」
(どうやらカーティス様って……良いお兄さんみたいだわ)
レティシアはニコニコしながら、仲良し三人兄弟のやりとりを見ている。
そのときだった。
「……なぁ。ジンギスカンとやらは、まだ残っているか?」
ふと、ウヒュイが少しだけ気まずそうに、しかし期待を込めた目でレティシアに尋ねた。
「はいっ! お肉も野菜も、まだまだたっぷりありますわよ!」
レティシアは満面の笑みで頷いた。
「おれはどうでも良いのだが、仲間達がジンギスカンを食べたいと言ってきたな。いや、おれはどうでもいいのだが」
ウヒュイがどうでもいい、と強調する。どう考えても、自分が食べたいのを、照れくさくて言えないだけのようだった。
「さあさあ、皆様で手分けして準備をいたしましょう! ね、ルーク、アリエッタお義姉様、それに……カーティスお義兄様もっ。エミシの皆さんも!」
「え、僕……? 悪いけど料理なんて作ったことないよ……?」
「大丈夫!」
エミシの戦士たちだけでなく、カーティスまでが包丁を握らされ、全員で調理の準備に駆り出されていた。
戸惑うカーティスに対し、ルークは胸を張り、これ以上ないほどの『ドヤ顔』を見せつけた。
「料理の素晴らしいところは、加護がなくても、身分が違っても、誰でも等しくできるところにあるんですよ、兄上」
「ルーク……」
カーティスは、弟が加護がないことを、コンプレックスに感じてるのだとずっと想っていた。
し、それは事実だ。
だが彼は加護のないことを、誇っている。
きっかけをくれたのは、おそらく、あのレティシアなのだろう。
「兄上、感謝する」
「感謝なんていいさ。兄として当然のことをしたんだからな」
カーティスはどこか楽しげに笑い、ルークとともに、不器用な手つきでキャベツを切り始めた。
やがて、倉庫の中に再び鉄鍋がセットされ、豪快なジンギスカン・パーティの第二幕が始まった。
『みんなで食べると、うまーい!』
氷竜ももちろん参加。
「ああ、先ほども食べたはずなのに、何度食べても美味いな……!」
身分も、種族も、加護の有無も関係ない。
皇族も先住民族も入り乱れ、ひとつの鉄鍋をつつき合いながら、誰もが顔を綻ばせている。
「皆様、お肉を食べ終えても、まだお腹には少し余裕を残しておいてくださいませ! ここからが本番、『〆(しめ)』の時間ですわ!」
「しめ……?」
首を傾げるウヒュイやカーティスたちの前で、レティシアは鉄鍋に残った肉の脂と特製タレ、そして野菜の旨味が凝縮された汁の中に、真っ白な『うどん』を大量に投入した。
こないだサッ・ポロで作ったものを、背嚢にしまっておいたのである。
タレをたっぷりと吸い込み、うどんが食欲をそそる飴色に染まっていく。
「さあ、ジンギスカンの『〆のうどん』ですわ! 召し上がれ!」
「む……!」
「こ、これは……!!」
一口啜った瞬間、ウヒュイもカーティスも、目を見開いて硬直した。
「うますぎるっ! 肉と野菜の旨味が、すべてこの麺に染み込んでいる……!」
「すべての食材の命を、最後の一滴まで余すことなく味わい尽くす……。これが『〆』という文化……なるほど……!」
ウヒュイは、深い感銘を受けたように唸りながら、夢中でうどんを啜った。
ふと見れば、倉庫の梁や荷物の上には、いつの間にか大量のコロポックルたちが集まってきていた。
『くるる!』『くりゅー!』『くるるっ!』『くっくるく!』
「な!? なんだ……!? コロポックルが、あんなにたくさん!?」
「あら、あなたが友達をよんだの?」
どうやら、レティシアの肩にいるコロポックルが、美味しい匂いにつられて仲間たちを呼び寄せたらしい。
彼らもまた、小さな器で〆のうどんを堪能している。
「大自然の神獣を、こうも惹きつけ、操るなんて……本当にすごい御方だ」
ウヒュイは、うどんを幸せそうに頬張るレティシアを、深い畏敬の念を込めて見つめていた。
◇
「ふあ〜……疲れましたわ〜……」
大宴会が終わり、小樽の街の宿屋の一室。
ベッドに倒れ込んだレティシアは、大きなあくびをこぼした。
すっかり夜も更けてしまい、サッ・ポロの城へ戻るのは危険だということで、一行は急遽この街で一泊することになったのだ。
コンコン、と控えめなノックの音がして、扉が開く。
「ルーク? どうしたんですか?」
赤髪の美青年が入ってきたのだ。
「護衛だ。お前は、自分がどれだけ今日とんでもないことをしたのか自覚が足りないからな」
エミシの心を開き、コロポックルを大量に呼び出した。前代未聞の少女。命を狙われてもおかしくはない。
ルークはそうぶっきらぼうに言い捨てると、部屋の隅の椅子にどっかりと腰を下ろし、腕を組んだ。
「ふふっ。ルークがいてくれるなら、安心ですわね……」
レティシアは嬉しそうに微笑むと、疲労が限界に達していたのか、すぐに毛布にくるまり……あっという間に規則正しい寝息を立て始めた。
「……レティシア? いくらなんでも早すぎるだろう」
声をかけても、レティシアは「すぅ、すぅ」と無防備な寝息を返すだけだ。
ルークは呆れながら椅子から立ち上がり、ベッドの傍らへと歩み寄った。
月明かりに照らされた、安心し切った無防備な寝顔。
今日は何度も無茶をして、その度に自分たちを救ってくれた。その小さな体のどこに、これほどまでの強さと優しさを秘めているのだろうか。
「……本当に、敵わないな。お前には」
ルークの赤い瞳が、ひどく甘く、熱を帯びた色に染まる。
彼は静かに屈み込むと、彼女の顔にかかった前髪をそっと払いのけ――その白い額に、触れるだけの優しいキスを落とした。
「んんっ……」
額に柔らかな感触を覚え、レティシアが微かに身じろぎをして薄く目を開けた。
「……ルーク? 今、なにか……なさいました?」
「いや……別に。何もしていない。疲れているのだろう、ゆっくり眠れ」
少しだけバツが悪そうに顔を逸らしながらも、ルークの声は、かつての狂犬とは思えないほど甘く、優しかった。
その声に安心したのか、レティシアは再びふわりと微笑み、深い眠りの底へと沈んでいく。
静寂に包まれた部屋の中。
「そういえば、言っていなかったな」
ルークは、愛おしい妻の寝顔を見つめながら、誰にも聞こえないほどの小さな声で、そっと囁いた。
「――エッゾへようこそ。俺の、花嫁」
【※読者の皆様へ、大切なお知らせ】
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
レティシアたちの物語は、第一章がこれにて完結となります。
第2章以降の続きを執筆するかどうかは、本当にまだ何も決まっていないので、一度キリのいいここで完結設定とさせてください。
(数日後、こちらのページで『続編の有無』をお知らせするので、ブックマーク登録は外さずにそのままでお願いします!)
作者の今の正直な気持ちを言いますと……どうにかして、この作品で『日間総合1位』を取りたい……っ。
そしておそらく、第1章を完結した『今日この日』が、本作における『最後のチャンス』です……っ。
「第2章が、続きが読みたい!」
「第1章面白かった! 続きの執筆もよろしく!」
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ポイント評価は『小説執筆』の『大きな原動力』になりますので、どうか何卒よろしくお願いいたします。
最後になりますが、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
願わくば、また第2章で会えることを楽しみにしております!




