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6発目 寺来薙心と「君にそう願う」

「寺来さん。僕は願うよ」



彼は、京魔くんはそう言った。


私の腰に据えた"四次元巾着袋"に、

彼は手を突っ込んでいた。

なにかを探すように、まさぐっている。

「ちょ……! 京魔くん! やめてよ!」

彼はやめない。

巾着袋のどこかを見ている。

私の心の奥の、さらに奥を見つめているように。


「君が、持ち込んだ品々で起きたハプニングなんて──」ガサゴソ



「僕からすれば、ラブコメのワンシーンでしかない。これは真実だ」ガサゴソ



「だから、なんだというのだろう?」


……ラブコメ? ワンシーン?


何言ってるんだ京魔くん?

浮いた発言を他所に彼は、語気を強めた。


ギアチェンジだ。

トップギアだ。

きっとシフトレバーを弾いた。下、横、上に。

俺についてこい。私をどこかに連れてってくれる。そんな語気。


「寺来さん……耳をすませて、よ〜く聞いて欲しい」


最速の喋り。峠、コーナーを攻める、青いインプレッサみたいに。助手席に乗ります。シートベルトを締めて。


──彼が喋る。


「はっきり言うぞ。僕からすれば陳腐な問題だ。下らないよ寺来さん、呆れたものだ。君が訳の分からん品々を詰め込んだ巾着袋をもってきて、街路樹にぶつかって気絶した拍子に所持品をドロップして、街道の車道にちらばった品々を僕が拾いに行って、あ〜寺来さんこの手のジャンルが好みの子なのかな〜もしかしたらあれも好きなのかな〜と、車道のど真ん中で思いふけっていたら、車に轢かれそうになって、八夜神さんが車道に飛び出して、僕の手を繋いで引っ張ってくれて、ことなきを得て、あぶな〜い!あはは!と笑いごとですんだと思いきや寺来さんが自身を責めて涙を流し、シリアス真っ只中のこの空気がなんだっていうんだ?誰も死んでいないし怒ってすらいないし、なんだったら笑っていました。なのに君は勝手に君を傷つけ君を蔑み雑に研ぎ澄ましたナイフでこれでもかと君に向かってブスブスさして心に血をダラダラ流して、誰も頼んでないのに涙ぼろぼろ流してごめんなさいだ?まるで意味がわからない。君は自分自身だったらいくらでも傷つけていいんだと思っているのか?悲しすぎるよ。実に下らない。そんな涙に僕は見えたよ? 雑な心だ。恥を知れ」



「…………ぐす、ぐすっ!……」



私は黙ってあなたを見ている。

黙ってくれ。とあなたが言ったから。

なのに、なんだ?この仕打ちは?

ひどすぎる。すきだけど。ひどいよ。あんまりだ。

そんなこと言ったってしょうがないじゃないか。

私まだ中二なんだぞ!

私はあなたのことが好きなだけだ。

すこしは慰めてくれてもいいじゃないか。

京魔くんは、まだ私の巾着袋ガサゴソまさぐってるし。私のことをなんだとおもってるんだ。

意地悪しちゃおうかな?仕返ししちゃおうかな?

ちかんでーす!あの人、私の心にさわりましたー! お巡りさんたくさんきてくださーい!って叫んじゃおうかな〜?チラ。


──京魔くんの目が、かっぴらいた。

彼は一瞬とまる。

探し物を見つけたと言わんばかりに。

巾着袋に突っ込んだ右手を、ゆっくりと、ゆっくりと、抜いている。


「──だけど心配はいらない。僕は生きてるし、八夜神さんも生きてるし、環さんは……あ、死んでるか。幽霊だからね?」


彼の右手が、巾着袋の奥からゆっくりと抜けていく。


指先に、見慣れた柄が現れた。


「もう一度いうよ?」


現れたのは、私の"所持品"だった。

彼はそれを左手で支え、両手で持ち直す。


まるで大聖堂を飾る宝飾品の気品をもって、

まるで大聖堂のステンドグラスから差し込む光をもって、

まるで大聖堂で宝具を授ける儀のように、



"それを"、私の両手に、預けた。



──強く、


強く、


握り込ませた。



私のバット。

父から譲り受けた。御神木から産まれた一振り。

法力を練り込んだ。数多のケツをふっとばした一振り。



──だからなんだというのだ。



「僕は願うよ。寺来さん」 



やまぬ雨、

雨粒に映る、泣く私。



「君がすべきは泣くことか?」



「いいや、違う」



おちる雨、

雨粒に映る、私の手に重ねた、あなたの手。



「君がすべきは自己憐憫か?」


 


「これも、違う!」



──ゆれた雨。

 


雨粒はちる。



私だけを映した



あなたの



「君は! 朝早起きして! 墓地掃除して! 街路樹に突っ込んで! 気絶して! 所持品ドロップして! 環さんに運ばれて……! 朝学校で! 昇降口をくぐって!」


「地雷系ファッションを身に纏って! 教室で! どこからともなくバットを振りかざして! 業を犯した常連のケツをぶっとばしてやるんだ!」



「これを!」



「────毎日だぁ!!」 



私はずっと忘れない。



「ぶっとばせよ! ケツバットで!」




「涙なんか流すな!! ぶっとばせばいい!!」




「毎日がつまらないか!? ぶっとばせばいい!!」



「ラブコメで人が死ぬわけねぇだろぉがぁああ!!」



「今日も明日も週末もぶっとばせばいい!! ぜんぶだ!!」



「僕はッッ! 君にぃ! そう、願う!!」



彼はそう願った。


なんて人だ。京魔くん。

あなたはなんて馬鹿なのだろう。

私も馬鹿だけど、京魔くんはもっと馬鹿だ。


なのに、嬉しかった。

私は、嬉しかったよ。本当。


とはいえど。

色々言ってくれたね? 京魔くん?


黙れとか。

呆れたとか。

下らないとか。

極め付けには、恥を知れ?


考えられない。

由々しき事態なのだ。

そうなのよ。


──だが許す。


私は寺の子。

仏の顔は三度までだ!


なんて、言ってみる。


人の気も知らないで。


悪い人だ。




──すきだけど。






────寺来薙心は忘れない。





彼の願った


寺来薙心の


心を。


いい意味でも


悪い意味でも


忘れない。




──そう。


彼の、桂木京魔の背後に現れた。


闇の扉がひらかれた


瞬間も。








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