鳴上 空 終
あの日、三人の少女から突きつけられた究極の選択。
俺は迷うことなく、一人の少女の手を取った。
『――俺は、空と一緒に生きたい』
ずっと昔から俺の側にいてくれて、俺のダメなところも全部知っていて、それでも狂うほどに愛してくれた幼馴染。
俺の言葉を聞いた瞬間、空が子供のように声を上げて泣き崩れ、俺の胸に飛び込んできたあの日の温度を、俺は一生忘れないだろう。
⸻それから、十数年の月日が流れた。
「ん〜……暁人ぉ、おはよぉ♡」
「おいおい、朝から引っ付きすぎだろ」
休日の朝。
キッチンの前に立つ俺の背中に、妻となった空がギュッと抱きつき、背中に顔をすりすりとおしつけてくる。
三十代になったというのに、空の圧倒的な美貌とスタイルは全く衰えるどころか、大人の色気が増してさらにヤバいことになっていた。
「だってー、暁人の匂い嗅がないと一日のエネルギーがチャージできないんだもん。ちゅっ♡」
「お前なぁ……」
俺が苦笑いしながら振り返り、空の頭を撫でようとした、その時。
「はぁ……。朝から勘弁してくれよ、マジで」
「ホントそれ。パパとママ、いまだにラブラブすぎてこっちが恥ずかしくなるんだけど」
呆れたような声と共にリビングに入ってきたのは、高校生になった息子と、中学生の娘だ。
かつてクズだった俺が、今では二人の子供の親になっているなんて、昔の連中が見たら腹を抱えて笑うだろう。
「あら、いいじゃない。パパとママは世界一愛し合ってるんだから」
空が俺の腕に絡みついたまま、ドヤ顔で子供たちに言い放つ。
「はいはい、ごちそうさま。俺、部活行ってくるわ」
「私も友達と買い物行くー。パパ、お小遣いちょうだい!」
「使いすぎるなよ、ほら、気をつけて行ってこいよ」
呆れ顔で家を出ていく子供たちを見送った後、リビングには俺と空の二人だけが残された。
「ふふっ、二人きりになっちゃったね、暁人」
空が嬉しそうにソファに座る俺の膝の上に跨り、首に腕を回してくる。
昔の異常な束縛気質は、俺が毎日「愛してる」と態度と言葉で示し続けた結果、すっかり鳴りを潜めた。……いや、暁人ガチ勢としての「重すぎる愛情」は相変わらず健在なのだが。
「空」
「ん?」
「……急に改まるのもなんだけどさ」
俺は、膝の上に座る空の腰をそっと抱き寄せ、真っ直ぐにその目を見つめた。
「ずっと、言いたかったんだ」
「なあに? 改まって、どうしたのー?」
「お前が幼馴染としてずっと俺の側にいてくれて……そして今、こうして俺の妻として、一緒に笑ってくれていること。本当に、感謝してる」
「え……」
「俺みたいなクズを、見捨てずに愛し続けてくれて……ありがとう。俺は今、お前のおかげで世界一幸せだ」
俺が心からの言葉を伝えると、空の大きな瞳から、ぽろりと大粒の涙がこぼれ落ちた。
「っ……あきと……バカぁ……っ」
空が泣き笑いのような顔をして、俺の胸に顔を埋める。
「私の方こそ……暁人が選んでくれたから、今こんなに幸せなんだよ……? 暁人じゃなきゃ、ダメだったの。暁人がいるから、私は生きていけるの……っ」
「空……」
俺は愛おしさに胸を締め付けられ、空の涙を指で拭い、そっと唇を重ねた。
優しくて、甘いキス。
唇を離すと、空の顔がみるみるうちに真っ赤に染まり、その瞳に「昔の空」を思わせるような、熱っぽく、ねっとりとした光が宿った。
「……ねぇ、暁人」
「ん?」
「私、暁人の遺伝子がもっと欲しくなっちゃった……♡」
「は……?」
空が、艶やかな舌で自分の唇をペロリと舐める。
「子供たち、夕方まで帰ってこないよね? ……ねぇ、作ろ? 三人目♡」
「おい待て、空! 今は朝だぞ!?」
「朝でも昼でも夜でも関係ないもん! 暁人が私をこんなにドキドキさせるのが悪いんだからねっ! もう絶対逃がさないから♡」
「わっ、こら、服を脱がすな――!」
結局、俺は抗うこともできず、愛する妻の熱烈すぎる愛情に押し倒された。
かつての地獄のような日々が嘘のように、今の俺の周りには、甘くて、少しだけ激しい、最高の幸せだけが満ち溢れていた。
――鳴上空。
俺の幼馴染で、最愛の妻。彼女の特等席は、これからも一生、俺の腕の中だ。
[鳴上 空ルート 終]




