音村 暁人 終
あれから、数日が経った。
小鳥遊 悠里は、完全に破滅した。
翼の差し金によって、彼女の余罪はすべて白日の下に晒されたのだ。拉致監禁、違法薬物の所持および使用、そして空たちを襲わせようとした傷害教唆。
言い逃れのできない決定的な証拠を突きつけられ、悠里は警察に連行されていった。
パトカーに押し込まれる際、「暁人は私のだ! 私のモノなのぉぉッ!!」と狂ったように叫び続ける彼女の姿を、俺は一生忘れることはないだろう。
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「……本当に、すまなかった」
翼が手配してくれた、ホテルのような特別病室。
俺はベッドの上に正座し、目の前に立つ三人の少女たち――空、翼、桃花に向けて、深く、深く頭を下げた。
「俺が、クズだった。俺が中途半端に優柔不断で、全員にいい顔をして……悠里の狂気に気づけなかったせいで、お前たちをあんな危険な目に遭わせた」
あの時、フェイク画像を見た時の絶望は、今でも心臓を鷲掴みにする。
もし、翼のボディーガードがいなかったら。もし、蓮二たちが空や桃花を助けに走ってくれていなかったら。俺のせいで、こいつらの人生は終わっていた。
「全部、俺の責任だ。……助けてくれて、本当にありがとう。そして……ごめんなさい」
「……もー、顔上げてよ暁人クン。ウチら、別に怪我したわけじゃないんだし」
最初に声をかけてくれたのは、桃花だった。
「それに、ウチはあんな男共にやられるようなタマじゃないし? まぁ、めっちゃ怖かったけど……暁人が無事で、本当に良かった」
桃花が、ホッとしたように小さく笑う。
「そうだよ、暁人」
ドンッ、と柔らかい感触と共に、空が俺の背中に抱きついてきた。
「暁人が無事なら、私はなんだっていいの。暁人のためなら、あのまま死んだって良かったんだから。……生きて、またこうして触れ合えて……えへへ、幸せ……♡」
空が俺の首筋に顔を埋め、深く息を吸い込む。相変わらずの重すぎる愛情だが、今の俺にはそれが痛いほど沁みた。
「……まったく。あなたって人は、本当に手がかかるよね」
腕を組み、呆れたようにため息をついたのは翼だ。
「私が監視の目を少し緩めた隙に、あんな三流の女に寝首を掻かれるなんて。……でも、まぁいい。あなたが自分の愚かさを自覚して、こうして私にひざまずいている。その素直さに免じて、今回は許してあげる」
「翼……。お前には、一番迷惑を……」
「迷惑だなんて思ってない。自分の所有物の管理が行き届いていなかった、私のミスでもあるもの」
翼は妖艶に微笑むと、ベッドに腰掛け、俺の顎をクイッと指ですくい上げた。
「さて。悠里という害虫の駆除も終わって、反省会もここまでよ」
「え……」
「ここからが『本題』でしょ、暁人」
翼の言葉に、空が俺からスッと離れ、桃花も表情を引き締めた。
さっきまでの安堵に包まれた空気が一変し、肌を刺すような、ヒリヒリとした緊張感が病室を支配する。
「私たちは、あなたを助けた。あなたがどれほどどうしようもないクズで、最低の男でも……それでも愛しているから」
翼の冷たくも熱を帯びた瞳が、俺を射抜く。
「でも、これ以上"なあなあ"な関係を続ける気はない」
「うん。私も、もう我慢の限界。暁人は私だけのモノだもん」
空が、黒く濁った瞳で俺を見つめて笑う。
「ウチも。暁人の本命になるって決めたから。もう他の女とシェアなんて、絶対に無理」
桃花が、ギャル特有の強い視線で俺を睨みつける。
「……っ」
俺は息を呑んだ。
三人の、圧倒的で、暴力的で、狂気すら孕んだ『愛』。
悠里の時とは違う。だが、これもまた一歩間違えれば俺を完全に飲み込み、破滅させるほどの重圧
「さぁ、暁人」
翼が、女王のような微笑みを浮かべて宣告する。
「私(一条翼)か」
「私(鳴上空)か」
「ウチ(岸辺桃花)か」
三人の少女が、逃げ場のないベッドの上で俺を取り囲み、同時にその言葉を口にした。
「――暁人は、誰を選ぶの?」




