音村 暁人6
「クソッ……頼むから間に合ってくれよ……!」
夜の海沿いの道路を、京介は全速力で走っていた。
空サンを助けに向かった蓮二くんたちと別れた後、しばらくしてから蓮二くんから「桃花たちは海沿いの廃墟を溜まり場にしている」という情報を頼りに、一直線にここまで駆けつけてきたのだ。
(桃花ちゃん……絶対無事でいてくれ……!)
息を切らして廃墟の敷地に足を踏み入れた瞬間、薄暗いコンテナの陰で身を縮めている小さな影を見つけた。
「……桃花ちゃん!?」
「っ! だ、誰……!? ……え、京介…?」
スマホを強く握りしめ、震えていた桃花が顔を上げる。その目には涙が浮かんでいた。
「良かった、無事だったか……! 他のみんなは!?」
「ウチを逃がすために、中に残って男たちを押さえてて……! 早く助けないと!」
「わかった。ここは俺に任せて、桃花ちゃんは隠れててくれ」
京介は迷うことなく廃墟の重い鉄扉に向かって駆け出した。
ドンッ!!
「あぁ!? なんだてめぇ!」
京介が扉を蹴り破って中に飛び込むと、そこには理衣たちを床に押さえつけようとしている十人近い男たちの姿があった。
「てめぇら……女の子に何してんだ、コラァ!!」
京介は怒号と共に床を蹴り、一番手前にいた男の顔面に強烈な飛び蹴りを叩き込んだ。
「ぐはっ!」
「なっ、なんだコイツ!?」
男が数メートル吹っ飛ぶ。京介はその勢いのまま着地し、隣にいた男の顎を鋭いアッパーで打ち抜いた。
「理衣ちゃんたち、今のうちにこっちへ!」
「きょ、京介くん……!」
怯える理衣たちを背中に庇い、京介は拳を構えた。
「おいおい、調子乗んなよクソヤンキーが!」
「数で勝てると思ってんのか!」
男たちが一斉に襲いかかってくる。
京介は飛んできた拳を紙一重で躱し、ボディに重い一撃を沈める。だが、圧倒的な多勢に無勢。一人を沈めても、すぐに死角から二人がかりで飛びかかられる。
「がはっ……!」
背後から背中を強く蹴られ、京介の体勢が崩れた。そこへ容赦ない殴る蹴るの雨が降ってくる。
「京介! 大丈夫なの!?」
外から様子を見ていた桃花が悲鳴を上げた。
「へっ……心配すんなよ、桃花ちゃん……。こんな雑魚ども、俺一人で十分だ」
顔を血に染め、左腕をダラリと下げながらも、京介はニヤリと不敵に笑って立ち上がった。
「てめぇ! まだ立つか!」
「女の子には……指一本、触れさせねぇよ……ッ!」
京介は捨て身のタックルで男を壁に押し込むが、すぐに他の男に頭を殴られ、視界が明滅する。
(くそっ……限界か……)
膝が折れそうになった、その時。
ドガァァァンッ!!!
入口の鉄扉が、さらに激しい爆音と共に吹き飛んだ。
「あ? なんだ……?」
男たちが驚いて振り返る。
「おーおー。随分と楽しそうじゃねぇか、お前ら」
「京介ぇ〜、お前一人で美味しいところ独り占めしようとするなよなぁ。水臭いぜw」
そこには、空を安全な場所へ送り届けて駆けつけた、蓮二と幹也が悪魔のような笑みを浮かべて立っていた。
「げっ……お前ら……東中の奴らじゃねぇか……! なんでこんな所に……!」
男達の顔色が一瞬で変わる。地元の不良界隈で、暁人たちグループの顔を知らない奴はいない。
蓮二が首をコキコキと鳴らしながら、ゆっくりと歩み寄る。
「俺らの友達とその女に手ェ出して、タダで済むと思ってねぇよな?」
次の瞬間、一方的な蹂躙劇が始まった。
蓮二と幹也の圧倒的な暴力の前に、男たちは悲鳴を上げる間もなく次々と床に沈んでいく。
数分後。廃墟には、男たちのうめき声だけが響いていた。
「ふぅー……。片付いたな」
「遅いっすよ。わざとタイミング計ってたんじゃないっすか…」
ボロボロになった京介が、床に大の字に寝転がって悪態をつく。
「みんな! 怪我はない!?」
桃花が駆け寄ると、理衣たちが泣きながら抱きついてきた。
「良かった……! みんな無事だね……!」
「うん……! 京介くんが、一人でずっと守ってくれたから……!」
桃花は、血だらけで息を切らしている京介の前にしゃがみ込んだ。
「京介……。ほんとに、ありがと。あんたが一人で飛び込んでくれなかったら、マジでヤバかった」
桃花が心から感謝を伝えると、京介は少し照れくさそうに起き上がり、真剣な目で見つめ返してきた。
「へへっ……。まぁ、俺にかかればこんなモンだよ。……で、桃花ちゃん」
「ん?」
「暁人クンと、俺…どっちがカッコ良かった?」
桃花は一瞬だけ目を丸くしたが、とても優しく、慈しむような笑顔を浮かべた。
「……確かに、京介かっこよかったよ」
「それじゃ……!」
「でも、暁人の方が10倍かっこいいww」
「見事なまでの玉砕だな。まぁ、わかってたけどよ」
「あっはっは! 命懸けでフラれてやんのww」
蓮二と幹也が容赦なく爆笑する中、京介は「そんなに笑わないで下さいよ…」と絶望した顔で、廃墟の冷たい床にもう一度仰向けに寝転がった。




