音村 暁人 5
ドンッ……!!
「よぉ……楽しそうだなw 俺らも混ぜろやw」
「……は?」
廃墟の鉄扉を蹴り開けて入ってきたのは、薄汚い男たちだった。
誰、コイツら……? 全員全く知らない顔だ。でも、一目見ただけでヤバい奴らってのはわかる。
「誰かの知り合い?」
「いや? 知らないよ」
「同じくー」
理衣たちがヒソヒソと顔を見合わせる。
「うわっ……アイツだけ知ってるかも……」
グループの一人、ミクが顔をしかめた。
「え? あの人??」
「ほらっ……一年半くらい前かな。学校の女子にちょっかい出しまくってた奴!」
……! 確かに、そんな顔だったような気がする。
「あっ! 思い出した! 女子全員にめっっっちゃキモがられて相手に全くされなくて、遂には女子を襲おうとしたけど、たまたま通りかかった人にボコられたダセー奴ww」
「それ以上しゃべるんじゃねぇ!! このクソビッチがッ!!」
バンッ!!
男が怒鳴り、ミクの腹を容赦なく蹴り上げた。
「え……嘘……っ」
「うう……っ」
ミクが腹を押さえてうずくまる。
「はぁ!? アンタ、マジサイテー!! 女蹴るなんて!」
「うるせーよ、ヤリマン共が」
(やばい……やばい……怖い……! 暁人……早く来て!)
ウチは本能的な恐怖で膝が震え、その場から動けなくなってしまった。
「てか、私らに手出したらどうなるか分かってるわけ??」
理衣が強気に睨み返す。
「あ? 言ってみろよ」
「この中に、暁人クンの女が居るんだけどww」
「………」
男たちが、一瞬顔を見合わせた。
「あーあw びびって声も出ないかーw」
理衣が勝ち誇ったように笑うと、男のリーダー格がニヤリと口角を上げた。
「ふふ……はははっ」
「何笑ってんの?」
「これ、見ろよw」
そう言って、男はスマホの画面をウチらに向けて見せつけてきた。
そこに映っていたのは――。
(嘘……え?……は? は?)
暁人が、血だらけになって倒れている画像だった。
やだ、やだ……! 早く助けなきゃ……!!
「待って……嘘でしょ……暁人が……」
「ねぇ……ヤバくない??」
「ほらw まだ写真あるぞw」
男がスワイプし、別の写真を見せてきた。
上半身裸にされた暁人の太ももにアイスピックが刺さり、胸には無数の切り傷が……。
……ん?
震えながら写真を見ていたウチは、ある強烈な「違和感」に気づいた。
(あれっ? よく見ると……暁人の胸にあるはずのタトゥーがない!)
って事は……。
「……合成写真って事?」
ウチがぽつりと呟くと、男の顔がピクッと引きつった。
キモっ……コイツら……マジでムカつく。
合成写真とはいえ、大好きな暁人のあんな痛々しい姿、見たくなかった。
「ウチらに嘘ついて、何がしたいわけ??」
「は? 嘘? 何が?」
「暁人の胸にあるタトゥー、ないじゃん」
「!!」
「あっ! 確かに!」
「それ、私も思った」
「うわっ、サイテー」
「まー、ウチらの暁人クンが、こんな雑魚どもにやられる訳ないよねー」
「キモすぎ! SNSでアンタらの顔と今の事、拡散するから」
ギャルたちの容赦ないツッコミに、男たちは顔を真っ赤にして逆上した。
「クソッ……バレるの早すぎるだろ……! しゃーねぇ……」
「暁人が来る前に、こいつら全部食っちまうか!www」
「は?」
「「「「「ウェ〜〜イwww」」」」」
男たちが、下劣な笑い声を上げて一斉に襲いかかってきた。
「キモっ……離せや!」
「抵抗すんなや! どーせいつもパパ活してるヤリマ〇だろーがw」
「死ね! 死ね!」
みんなが男たちに組み伏せられ、悲鳴が上がる。
(どうしよう……怖い……!)
まだ膝が震えて、動けない。なんで、なんで……!
「よぉ……桃花……」
「……え」
ウチの目の前に、なんか場違いな、ジメッとした陰キャ男が立っていた。
「お前の事、ずっと狙ってた」
はぁ? 何コイツ……キモっ。
「告白、三回もしたのに全部無視されてよ……マジで落ち込んでた……。だけど、同時に怒りも感じた」
(あー、なんかいた気がする……あんまり覚えてないけど)
というか、怒りって何? キモい奴を無視するのは当然でしょ。
「あんなに俺に優しくしてくれたのに……」
……?
あーー! 思い出した!
確か高一の最初、ウチが「クラスのみんなと仲良くなりたいなー」って思って、誰にでも明るく話しかけてただけなのに、勝手に勘違いしてストーカーみたいについてきたマジでキモかった奴だ!
「俺の大好きなオタクに優しいギャルだと思って運命を感じてたのに……ッ!」
「うわっ……マジでキモいんだけど」
ウチは、心底見下した冷たい目で男を睨みつけた。
「オタクに優しいギャルなんている訳ないじゃん……。少し話しかけられたくらいで勝手に勘違いされんの、マジで不快なんだけど」
「……ッ!」
「まず、ギャルの時点で、お前みたいなオタクには微塵も興味ないわww」
男の顔が、屈辱で真っ赤に染まる。
「ウチらギャルはみーんな、刺激的で自信のある『悪ーい男』が好きなの。普通の恋愛なんて興味ないし、ヤバい男とヤバい事して、刺激的な恋愛をしたいの」
「つか、アンタみたいな底辺に告白される事自体、不快だしムカつく……。ウチとアンタじゃ、生きる世界が違うでしょ?」
「……ッ、このビッチがッ!!」
「弁えろやw クソ陰キャww」
この陰キャを全力で馬鹿にしていたら、ウチの膝の震えがピタリと止まっていた。
(よしっ! みんなの為に、早く警察呼んで助けてもらおう!)
警察を呼ぼうとスマホを取り出した瞬間。
「調子に乗んなッ!!」
陰キャがウチの手を叩き、スマホが床に転がり落ちた。
「なにすんの!? 暁人に言うからね!」
「黙れ! 暁人なんて関係ない! 俺の二年間のみじめな恨み……お前の身体にわからせてやる!!」
陰キャが、よだれを垂らしながら覆い被さってくる。
「………」
シューーーーッ!!
「うッ!? 目が……ッ!!」
ウチは、カバンから取り出した催涙スプレーを男の顔面に噴射した。
前に暁人に言われてから、スプレーとスタンガンは常に持ち歩いてる……。だから……!!
バチチチッ!!!
「うぎぃいいいぃぃっっ!!」
目を押さえて悶える陰キャの首筋に、容赦なくスタンガンを押し当てた。
陰キャは白目を剥いて痙攣し、床に崩れ落ちる。
「あー、キモっ……。早く死ねよ……」
こいつに構ってる暇はない。早くみんなを助ける為に、警察に連絡しなきゃ……! あとは……暁人にも連絡した方がいいよね!
「みんな! 助けを呼ぶから、ウチ、この場から一旦逃げるね!!」
「くっ……離せやこの!……おっけー! わかった! 私らも時間稼ぐから、早く行って!!」
理衣たちが男に羽交い締めにされながらも、必死に叫び返す。
「なっ! 待ちやがれ!! おい! あの女を捕まえろッ!!」
ウチは落ちたスマホを拾い上げ、男たちが追いかけてくる前に、廃墟の出口へ向かって全速力で駆け出した。
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走りながら、震える指で暁人にメッセージを送る。
その後、すぐ近くの路地裏のコンテナの陰に身を隠し、ウチは息を殺して110番に通報した。
(お願い……暁人……早く来て……!)




