クラスメイト
この学園の男子生徒たちの間には、誰もが密かに共有している『美女ランキング』というものが存在する。
第一位は、鳴上 空
誰もが振り返る圧倒的な美貌とスタイルを持つ絶対的天使。だが、彼女は音村暁人以外の男には全く興味がなく、異常とも思えるぐらい執着をしているため、難易度はSSSランクだ。
第二位は、一条 翼
気高く美しい生徒会長。理事長の娘という権力と、近寄りがたいオーラを放っており、我々一般生徒にとっては次元が違いすぎる。雲の上の存在だ。
だからこそ――俺たち一般男子にとっての『真の女神』は、第三位の彼女なのだ。
岸辺 桃花
派手なギャルグループの中心にいる彼女だが、性格はすこぶる明るく、誰に対しても分け隔てなく優しい。
すれ違えば「あ、おはよー!」と気さくに笑いかけてくれるし、掃除当番を手伝えば「ありがとー! マジ助かる!」と可愛い笑顔でジュースをおごってくれたりする。
(空ちゃんや会長と違って、桃花ちゃんは俺たちにも手が届くかもしれない)
(あんなに明るくて優しい子が彼女だったら、毎日どれだけ幸せだろう……)
俺を含め、学園の男子の半数以上が、密かに桃花ちゃんに恋をしていると言っても過言ではなかった。
だが、そんな俺たちの希望を、理不尽に踏みにじる男がいた。
「あーっ! 暁人! みっけ!!」
昼休みの中庭。
音村暁人の背中に、鼓膜がとろけそうなほど甘い声が響いた。
声の主は、俺たちの女神・桃花ちゃんだ。彼女は満面の笑みで駆け寄ると、周りの目など一切気にせず、暁人の腕に自分の胸を思いきり押し当てて抱きついた。
「おい、離れろ。暑苦しい」
「えー! いいじゃん減るもんじゃないしー! ねぇ、今日放課後ウチらと遊ぼーよ」
暁人が眉間に皺を寄せて邪険に扱うが、桃花ちゃんは全く離れようとしない。
それどころか、彼女の周りにいる理衣やミクといったトップカーストのギャルたちまでもが、暁人の周りをぐるりと取り囲んだ。
「そーだよ暁人クン! 最近ウチらへの構い足りなくないー?」
「この前みたいに、桃花ちゃんの部屋で遊ぼー?」
学園トップクラスの美女ギャル集団に完全に囲まれ、ボディタッチをされまくる音村暁人。
その光景を遠巻きに見ていた俺たちモブ男子の間に、ギリッ、と奥歯を噛み砕くような音が響き渡った。
「……ふざけんな。マジで、ふざけんなよ音村の野郎……ッ!」
「空ちゃんだけじゃ飽き足らず、桃花ちゃんたちにまで手ェ出してんのかよ!? どんだけ前世で徳積んだらあんなハーレム状態になんだよ!!」
俺の隣にいた男子が、血の涙を流さんばかりの形相で頭を抱えた。
「しかも見ろよ! あいつ、あんな美少女軍団に胸押し当てられてんのに、『ダルい』みたいな死んだ目してやがる! 俺なら……俺なら土下座して靴舐めるのに……ッ!!」
「音村の奴、絶対に桃花ちゃんたちの弱みでも握って脅してんだろ……。桃花ちゃん、あんなに優しくていい子なのに。アイツみたいなクズ不良に無理やり付きまとわれて、可哀想に……俺が助けてやりてぇ……ッ」
男たちのドス黒い嫉妬と憎悪が、中庭の空気を淀ませていく。
『俺の方が桃花ちゃんを幸せにできる』
『あんなクズ、さっさと消えればいいのに』
だが、男たちは知る由もなかったのだ。
男たちが血を吐くほど羨むあの状況が――。
(頼む……誰でもいいから助けてくれ……! こいつら、また俺をマワすつもりだ…ッ!!)
暁人にとって、一瞬の油断が「監禁・搾取・精神崩壊」に直結する、地獄の処刑台へのカウントダウンであることなど。
今日も音村暁人は、ギャルたちの甘い香水と底知れない狂気の中で、誰にも気づかれないSOSの冷や汗を流し続けていた。




