第20章 ユナムの逆鱗
コロモス国に到着し、もう少しで森を抜けそうという矢先に、アソオス王子率いる一行と再会する。挨拶もそこそこに、レスカテ王子は先へ進む。
アイラとすれ違う際・・俺は、どうしても進めなくなった。
「おい・・・今、なんつった?」
俺は今までで、一番 ブチ切れてたように思う。
心は暗闇の中‥静かで体は熱く・・立ち止まったまま・・・・
低い声で、アイラの方へ‥目線だけ 向けて話す。
アイラの顔が一瞬、強張ったように見え・・俺が立ち止まった事に、周囲も気づいたようで振り返る。
オリクト「おい? どうした?」
ルア「・・・ユナム?」
アソオス「アイラ? 何か言ったのか?」
「お前に、俺らの 何 を知ってるって言うんだよ?」
アイラ「え・・それは‥、ウワサで聞いた話だけど・・・」
「ウワサ ?」
アイラが、どこでどんな話を聞いたのかと思ったら・・・
ただの思い込みばかりの話で、どこにも根拠なんて無い!
「何も知らないのと一緒じゃねーか。それで何が『苦労してない』だ?ふざけんのも いい加減にしろよ!!」俺はアイラに向き直って言う。
それでもアイラは悪びれもせず「自分たちの方が優秀だ」というような話を続ける。
アイラ「あんたは、その白っちぃ王子がお似合いよ!」
「 お ま え ・・」アイラの首を掴む。
アイラ「っぅ‥」
アイラの首を掴んだ俺に、アソオス王子が臨戦態勢になったけど、無視した。
ベルク「ユナムくん!ぉ…落ち着いて下さい!アイラさんも、早く謝って‼」
アイラは反省なんてしない。いつだって、自分が正しいと言って聞かない。
「お前が、俺たちを・・王子たちの旅を…、笑って言って良いはずが無いんだよ・・。じゃあおまえ、何も知らねー奴から‥アソオス王子をバカにされて黙っているのかよ? ちげーよなぁ?」
俺は‥首を掴んでる手に力を籠める。
アソオス「‥頼む・・ユナム・・。離してくれないか?」
レスカテ「ユナム、落ち着くんだ・・」
周囲が騒然としてたが、俺は‥コイツが許せない。
アソオス王子とレスカテ王子は、違う。性格も、考え方も・・周囲だって。
しかもアイラは‥王子の過去すら嘲笑う。馬鹿にして・・・
オリクト「ユナム! …ルア、あいつ、声…聞こえて無いのか?」
ルア「聞こえてはいる‥はずだけど、あのユナムの足元から湧き上がってるような赤い覇気は‥何・・・?」
ヘルト「アイラ! 素直に謝れ!‥でないと、おめー‥‥死ぬぞ!」
「なぁアイラ・・・。おまえにとっては他人でも、俺はもう随分一緒に旅してるんだよ。俺が加入した話すら知らないお前に、どうのこうのと言われる筋合いなんぞ、ねーっての・・分からねぇの?」
アイラ「‥ご・・め・・っ…」
「謝って許してもらえると思ってんな・・」
俺の周りの炎のような赤い覇気が・・やや黒くなり始めた時‥
ステッラ「皆さん! 彼から離れて下さい! 危険です!」
みんなが一斉に、ベルクの近くに居たステッラさんを見る。
アソオス「ステッラ⁈ どういう事だ!」
ステッラ「彼の覇気は、ミルゼアの力です!今すぐ、離れて!」
ルア「何が起きるんです?!」と言う頃には、俺を中心に風が巻き起こり、皆が‥風に押し戻されつつあった。
ベルク「ミルゼアの?!」
ルア「早くっ! 止め、な‥きゃ・・・」
俺は、アイラを掴んだままの腕を上げる。
アイラは泣き出していた。それでも、許す気分にならなかった。
好んで、あんな事を王子だってしたかった訳じゃないんだ・・・!
それなのに、無神経に笑うなんて・・もう、我慢出来ない!
「ユナム、もう良い」と、突然‥王子に肩を叩かれる。
振り返ると、哀しそうな顔の王子に‥ ハッ とした。
途端に、手を開き・・・アイラが落下したのをアソオス王子が抱き止める。
咽込むアイラを心配するように、アソオス王子が寄り添う。
俺の怒りは、王子の顔 や 心配するルアさん や オリクトの顔 見て・・・
どっかに・・・・・・・ 吹 っ 飛 ん だ ・・・
赤黒くなってた気持ちと一緒に、揺らめいていたという覇気と風も止み・・。
俺も離れた場所に、腰を下ろして休憩した。
「‥すみません・・でした」
あんなに怒ったのは、いつ振りだろう?
ガキの頃は、よく怒ってた気がするけど・・・・
王子が首を軽く横に振り「俺の事で、すまない‥」と言うから、びっくりして
「王子は悪く無いです!!あいつの言葉が悪いんです!!」って王子に言った。
オリクト「最初の・・何って言われたんだ?‥俺らには聞こえなかったからよ」
言いたくなくて、唇に力を込めて閉じていると‥
ルア「良いから、言いなさい」そう‥お説教時の顔になって俺を見る。
うっ・・ はぁ~
そして、俺が立ち止まった時に 聞いた言葉 を話す。
3人共、びっくりした顔をして、ルアさんは‥おでこに手を当てて悩み・・
オリクトは頭をガシガシ搔いて、王子は大きな溜息を吐いた。
しばらくして、オリクトやルアさんが「そんなの聞いたら自分も怒ってた」と言って、王子は何かを呑み込むような表情と息遣いをした。
その後、オリクトとルアさん 2人だけで、アソオス王子の方へ進み話している。たぶん、さっきの言葉‥聞いた事を…伝えたのだろう。
アソオス王子も大きな溜息を吐き、ベルクさんとステッラさんは謝りだし、ヘルトも「やっぱ、おめーが悪いんじゃねーか!」と、アイラを怒っているのが聞こえた。
王子「‥ユナム。俺の為に怒ってくれたのは嬉しいが・・」
やり過ぎだった・・と言った。
あそこまで、怒る事になったのも…夢での懸念があった事を話す。
王子「もっと早く言ってくれ。そうすれば、対策も出来たぞ・・」
俺は…苦いもん食べた時みたいな顔で、王子に申し訳ない・・って顔で聞いてた。何事も相談が大事だって。
王子「おまえは もう、俺のパーティの 仲間 なんだからな‥‥」
心に黒い物が・・モヤモヤしてたけど『俺は王子の仲間』って言葉で、そのモヤモヤは、最初から無かったかのように、晴々した。
・・・だけど‥‥
オリクトに呼ばれ、振り向くと手招きされる。
立ち上がると、斜め後ろにアイラの姿が見える。
アイラを見た瞬間、アイラを睨みつける。
アイラ「っ!‥」
俺がアイラを見る目は、今までの それ ではないのは、周りも気づく。
アソオス「ユナム‥。今回の件、アイラの発言が悪かった。以後、このような言い方はさせない。許して‥くれぬか?」
「…はい。もう言わないなら・・」
俺の言葉に、アソオス王子はホッと息をはいたように思った。
アイラを睨みつけながら・・・「…でも アイラの事は 許 し て な い から」失礼します・・・って、背を向ける。
オリクトやルアさんも、王子たちに会釈程度に挨拶して、王子と共に森を抜ける為‥‥進む。
・・これが、どっちかの城での諍いだったら、戦争に発展してたかも知れなかった。
だけど、どうしても‥‥
やっとロンフルモン山を越え、目の前には白く高い壁が‥その奥の森を守ってるような形で、聳え立っていた。
城門のようで、入口には兵士が立っている。
兵士「‥待たれよ! 通行証は、お持ちか?」
言い方が独特な気がしたけど・・・。見た感じは普通だ。
ルアさんが、ニーゼンの里で購入していた、通行証を見せる。
兵士「しばし、待たれよ」と言って、扉横の小さな部屋に入って行く。
しばらくすると出て来て、通行証には許可の印が描かれている。それを再び受け取ると、扉が大きな音を立てること無く、静かに開く。
兵士「どうぞ、中へ進まれよ」
・・・変な口調・・と思いながら、城門をくぐり、中へと進んでいくけど・・・森しか見えない。しかも木々の葉、1枚1枚が‥光ってる。
・・・なんで、光ってるんだ?
上を見上げて進んでいく。
途中・・・木の根が出っ張っていたらしく、躓いて転びそうになるのを、オリクトに助けてもらいながら、王子を先頭に進む。
再び、大きな門が見える。両扉は白く、両方の扉には木々の絵が描かれていた。その両脇には、マントを付けた兵士が2人立っている。
王子は、いつも通りに名乗ると・・扉は開かれて中へ。
目の前のフロアは緑の絨毯と、2階へ上がる階段がある。
白い壁のせいか、光が差し込んでいるのもあって、すごく明るい!
全員が、フロアの中央まで歩くと…正面の扉は閉じた。
すると、コツコツと音を響かせ・・・上から、誰かが降りて来る。
すぐさま、王子が跪いたので、俺も急いで跪く。
「ようこそ、レスカテ王子‥コロモス城へ、よくお越しくださいましたね」
と穏やかなゆっくりとした口調の女性の声が聞こえた。女王様か?
何か小さな鐘のような音が鳴ると、どこからともなくメイドが出て来て、俺たちを客間へと案内してくれる。
客間に通され、儀式の話は翌日にするという話になって、今日は ここ で休ませてもらう事になった。
ルア「王子、先に確認したい事がありますので、少し失礼しますね」
「ルアさん、どこへ行ったんですか?」
王子「儀式に関する事だろう」
オリクト「そういや、王子・・」
俺と王子に目をやると、さっきのいざこざの話をしだした。
オリクト「ベルクに聞いたんですがね、ユナムがブチ切れてたあの時の力は『ミルゼアの力』らしいですぜ」
王子「…そういえば、言っていたな・・」
「ミルゼアの力って、俺の予知夢みたいな力の事ですよね?」
オリクト「ベルクやステッラが言うには、世界を揺るがす力の発動の波動・・だとか‥」
王子「…世界を・・・揺るがす?‥」
オリクトは、話を続ける。
・・・もし、あのまま…俺の怒りが収まらなかったら…世界中の竜たちが目覚めて、国中を滅ぼしかねないって・・・え?・・俺の力って、そんなんだったか?
いやいや・・ 誰かのピンチを見るだけ・・・だよ・・な?・・・
王子「再び、バーゼルドに会っても、ユナムは話さないようにな」
「・・・はい…」
「しっかし、驚きましたねー」ってオリクトが、俺のブチ切れシーンを再現し始めた! やっ!やめてくれ~!!と、オリクト止めようと必死な俺を見て、オリクトも王子まで、笑ってるんだから・・・ったく・・。
・・・まぁ、俺が悪いんですけど・・・。
しばらくすると、ルアさんは戻ってきた。
夕食はこの部屋の中へ用意してくれる事、城内の1階部分は、自由に動き回って良いと言う事、明日は朝から謁見の間で儀式についての説明を受けた後、朝食で、儀式へ・・って流れらしい。
オリクトは、それを聞いて‥すぐさま、部屋を飛び出す。「あっ!俺も!」と言ってソファから、立ち上がると‥ルアさんにお金をもらう。
俺は部屋の場所を覚えておいて、探検を始めた。
1階が最も広いのか、城下町が無いせいか・・ギルドや店まで在った!
他は、厨房や食糧庫へと降りる階段が見えたり・・客間が多いように思った。宿屋が無い代わりに、城の客間を旅人に貸してるらしい。
ギルドでは、城門横のドアを‥印の無い通行証や、それ自体持ってない者が入ると・・・かなり危険な場所だと言う。
・・・・普通に、買えたし 普通に入ってきて、良かった・・・・と、心底ホッとするような、狂暴な魔獣が居るらしい。
それと、俺らとは違う種族の人もギルドで仕事している。気になって、ずっと見てたら笑われて「エルゥ族が、そんなに珍しいですか?」と。
「エルゥ族? うん。初めて知った」
受付のお姉さんは、この国出身のエルゥ族という・・・耳が横に細長いのが一番の特徴で、緑や黄色、白の髪を持つ長命な種族なんだとか。
他にも、魔力の高い人が多いからか、レミエールやエルグレイン、アルマリーチェなど、魔法が得意な人が多いそうだ。
・・ただ中には、他の職業に就くような、魔力の低い人も最近は産まれる事があるらしい。
ギルドで、いろいろ話聞いて帰ると・・すでに夕食の準備されてて、俺を待ってたみたいだった。
席につき、いただく。
夜。
大きな鼾のオリクトのせいで・・・目が覚めてしまった。
王子は・・・寝てる。
ルアさんは別室で寝てるから、ここには居ない。
俺は、そう・・っと、テラスへの扉を開き、入って閉める。
テラスに寄りかかり・・今日の事を・・・・思い出していた。
『ヘタレ王子は婚約者に酷いケガを負わせた‥』
アイラの言葉が蘇る。
くそっ! 違う!
以前‥‥‥今日と同じように、オリクトの鼾で眠れなかった日。
テラスに王子が居て、何かを握りしめて…誰かの名前を呼んでいた。
その姿が哀しくて、俺は・・・声を、かけたんだ。
王子は俺の存在に気付き・・顔を背けたけど、涙が流れてたのが分かった。
握りしめた手の中にあったペンダントには、どこかの王女のような姿の絵が付いていた。
涙を拭い、俺を見る王子。
王子「これは、自分の罰だから・・・」
「俺で良ければ、話・・聞きますよ。もちろん、他言しません」
王子の涙の訳と、戦い以外でも・・力になりたかったんだ。
アイラは、噂だけを信じ込み‥勝手な言葉を並べてた。
それが、本当に・・・ ゆ る せ な か っ た 。
アイラの暴言内容*もっぱら他国の王子であるレスカテ王子を誹謗中傷していた。「白っちい」は、元々肌が白めな王子と白い鎧を見て言っただけ。アイラ的には昔のユナムとのやり取りのつもりで、考え無しに言った為に、逆鱗に触れてしまったのでした。アイラはけっこう思いつきでモノを言うので、割ととんちんかんな事も言います。※なお、これがキッカケとなった分岐の先は、ココでは書きません。
ユナム・ブチ切れ状態*目が坐っていて、無表情。瞬きもほぼしてない。いつもの明るめな少年の声ではなく、低い声で淡々と話している。今のユナムは、王子の側近のような立ち回りが多く誇りに感じている為、王子の事を悪く言っては・・いけない。
【ミルゼアの力】ユナム・固有スキル。
しかしブチ切れ状態は、いわゆる『暴走状態』であり、力の波動として赤く透明な風のようなものが‥ユナムの足元から頭の上まで昇っていた。これが、真っ黒になった時‥世界が滅びるという記載が、アソオス国の古い文献にある。
*アイラに言われた最初の言葉は、19章ラストを読んで下さい。
【コロモス城門】コロモス城と周囲の森を囲む形で築かれた城門。以前のフィエルテ国のシャグラン関所よりは、幾分か低い。扉横には、小さな兵士詰め所がある。人が近づくと門の前に立つが、それ以外はその部屋で過ごしている。反対側には無い。部屋の無い方に、扉があるが、許可されたものを持っていないと、即死攻撃してくる魔物が出現しやすくなり危険と言われている。
【通行証の印】城門で通行証にハンコのようなもので押された印。実は、魔力が込められており、その魔力を感じ取る魔獣が敵か友軍かを判断してるらしい。
【コロモス城】城下町の代わりに木々が生い茂る。木々の葉、1枚1枚光っている。光ってるのは凝縮された魔力であり、葉を流れる際に光る。その光ってる1枚だけで回復薬以上の効果があるとされてるが、ジャンプして届く距離には無い。
【エルゥ族】長寿の種族。長い横に伸びた耳と緑~白の髪を持つ、男女共に美しい姿の人達が多い。突然変異のように、たまに逞しい身体の魔力が低い姿も生まれてる。長命なのは一緒で、軽く千年越えてる人がほとんど。城門の兵士の口調が変なのは、3千年以上生きてる人で、昔の名残で話すため。緑の髪は子供たち。ある程度大きく千年越えると髪が金髪になっていく。白は女王のみ。
*レミエール=治療院に居る者たち *エルグレイン=ルア *アルマリーチェ=ステッラ
次回・・レスカテ王子自身の過去のお話~儀式へ




