八丁念仏団子刺し
学校に着いてから二時間が経った。休み時間中、テルが壱の席にやってくる。
後ろ手に、何かを隠している様子だ。
「なあ、壱」
「何だ?」
「八丁念仏団子刺しって知ってるか?」
「何だそれ。俺の敵?」
「刀の名前だってさ」
団子好きな壱が、眉根を寄せたくなるほど嫌悪する名称だ。
団子への当てつけだと思っている。
実際は伝説級の名刀なので、そんな嫌味な名をつけられることはないだろうが。
「ふーん……。それは手に入れられんの?」
壱が興味なさげに訊くと、テルに真顔で否定される。
「いや。無理だろ。常識考えろよ。団子マニアの壱さんは、たまーに常識知らずだなー」
手に入れられたら、折るつもりだったとは口にはできない。
「うるさいなー。俺の常識知らずっぷりは、テルほどじゃないだろ」
「オレはオレで、結構常識知ってんのよ?」
ふふんと鼻高々に言い返してくるが、壱はじっとりした目で棒読みする。
「アー。ソーダナ。お前が団子の話持ちかけるってことは……」
ピラッという、紙が何かに擦れる音がして、テルの手から壱の机に出された。
「そういうことだな。はい、きたぜ。おまえに、依頼だ」
「……八丁念仏団子刺しマニアの団子パーティに潜入?」
紙に書かれていた内容はこうだ。
『八丁念仏団子刺しのレプリカを持っているオーナーが、最近真作の刀を闇オークションで手に入れているという噂が耳に入った。オーナーは近日友人らを集めて団子パーティを開くので、団子が好きな団子山壱探偵に依頼することにした。そのオーナーに接触して、真相を確かめ、もし、それが真実だった場合は、警察に連絡して欲しい。』
壱に依頼するのが、不自然だと思えるくらいに危険な依頼だ。
詳細も書かれていない。