殴り合いもできる関係
壱はパンパンと手を払って、制服を整える。
冷ややかな目で大親友に苦言を呈す。
「あんまり俺に何かしてくれるなよ。犯罪者になるのは、ごめんだからな」
手が出てしまうのは、武術を習っているゆえに、か。
それとも、ただ単にむかっ腹が立ったからなのか。
壱は自分のことがわからなかった。
大親友に危害を加えるのも、壱はよしとしない。
壱の能力的に、単なる喧嘩で終わらないかもしれないのだ。
この力は暴力を振るうための力じゃない。守るための力だ。
だから、さっきの仕返しは、壱はちょっとだけ悪いことをしたと思っている。
遊びじゃすまなくなったら、壱はどうしたらいいかわからないからだ。
なのに、テルは気にも留めたふうもなく、ケラケラと笑っているばかり。
「悪い悪い。ついやっちまうんだよな」
壱は眉根を寄せた。
「全く……。お前はいつもそうだよな。そうやって『つい』で片づけて、どんだけ怖い目に遭ってきたと思ってんだよ。下手すりゃ、死んでたかもしれないんだぞ?」
テルがどれだけ多くの犯罪に巻き込まれてきたか、壱は知っている。
常人ならトラウマになってもおかしくないのに。
テルは命が助かったから大丈夫と言っていつまでもこの調子だ。
ちょっとは反省の色を見せてもいいはずなのに。
大親友だからこそ、怒っているのだ。彼のポジティブさは危ういから。
「ごめんって」
「反省しろよ?」
「わかったわかった。真面目すぎるんだよ、壱はぁ」
「お前が不真面目すぎるんだよ」
言い合いながら、壱たちは学校まで歩き出した。
何でもかんでも適当な彼の性格は、真面目な壱にはちょっと悩みの種だ。
それでもずっと大親友なのは、壱が優しいからでも彼が適当だからでもない。
波長が合う、正反対だからやっていけるのだ。
どちらかが間違った時は、どちらかが正す。
その関係はいつまでも絶たれることはない。
壱だって、いつでも正解を選んできたわけじゃない。
普段怒らないテルに怒鳴られたことだってあるのだ。
殴り合ったこともある。
大親友との関係は、これからも続いていくだろう。




