母は強し
テルは盛大にこけた。
だが、すぐに起き上がる。
壱はテルが起き上がるまで、一切攻撃しなかった。
「俺たちは机を向かわせて話し合うより、そういう関係が似合ってるんだよ」
テルは顔についた砂を鼻息で飛ばして、顔をぐしぐしと擦った。
テルはいつもの声と笑顔を取り戻した。
「……そうだな!」
またしても、壱は制服を汚してしまい、額を押さえながら帰宅することになった。
水洗いでどうにかできないかと思うものの、制服は専門のクリーニング店でしか洗濯できない。
一度決めた約束を、破ってしまった。
固唾を呑んで、壱は団子山家のドアの前へいき、インターホンを押す。
(今度は、何て言われるかなー……)
母親が怒り心頭に発する姿を想像して、壱は青ざめた。
母親は怒ると父親より怖い。
腹を痛めて産んでくれた母の強さは、何よりも恐ろしいものだ。
壱がこの世で一番怖いのは母親。
インターホンに出たノイズが鳴ったので、壱は恐る恐る口を開いた。
「壱でーす……ただいま帰宅しましたー」
すると、機械の向こうから大音声の怒声が飛んでくる。
『壱ぃいいいいい!! 何やってたの、今何時だと思ってるのよ!! もう七時よ!? 危うく学校に電話をかけるところだったわ! 中学生のくせに、いつまでも外うろついてんじゃないわよ!! 探偵やめさせるからね!? お小遣いも没収、団子も食べさせないわよ!? 聞いてるの、壱!!』
壱は思わず耳を塞いで、インターホンから跳んで離れた。
壱は手を合わせて、頭を下げて必死に懇願する。
「そ、それだけはやめて! 本気で! 本気でやめて! 団子ないとじぬぅー! 俺のアイデンティティを奪わないで母さん!! ごめんなさいい許してくれええ!」
機械越しに、母親のため息が聞こえてくる。
『二子から聞いてたけど……本当に遅かったのね。でも、遅すぎよ。次からは、二子に言わずに、私に直接言いなさい。いいわね、壱?』
「は、はい……」




