市民の模範になるため
「市民の模範になろうとしているやつが、そんなんじゃ……示しがつかないからな」
だから、と続けて、
「俺がお前を無闇に傷つける必要も、お前が無闇に傷つく必要はないんだよ」
壱は笑った。
「……それでも言いたきゃ、言えばいいけどな」
「……」
テルは茫然としている。
壱の大人びている意見を聞いて、こいつ人間か? と思っているに違いない。
それか、中学生か? と疑問を抱いていることだろう。
壱も自分で自分が気持ち悪いと思う。
何でこんな考え方を持つようになったのか、はっきりしていないからだ。
いつからだろうか。
十代っぽくなくなったのは。
昔はもっと、やんちゃしていて、こどもっぽかったのに。
「まー、いいや。テル、さっさと春日井さん呼んで。暗くなるのもよくないし、春日井さんの両親も心配するだろ」
「あ、ああ……ハイ」
我に返ったテルは携帯を取って、指でメールを打ち込んだ。
テルが何も言い返してこなかったので、調子の狂わされた壱は頭をかく。
「何だよ。らしくないな」
無言でいること数分。
あやのがインターネットカフェにやってきて、物珍しそうに店内を見回していた。
やはり、あやのは生粋のお嬢様のようだ。
二人のいる場所にきて、にこっと笑う。
「お待たせしました。団子山くん、テルさん」
「待ってないよ。帰ろう」
「テルさん、どうしたんですか?」
あやのが心配そうな顔で、テルを見つめる。
テルは疲れた顔をしている。
「何か、元気ないみたいだな。理由はわかんないけど、そっとしといてやってくれ」
「そうなんですか……。テルさん、優しいから……心が疲れちゃったんですね」
あやのがそう言うと、テルは蚊の鳴くような声で毒を吐く。
「オレは、そんなんじゃねえよ」
壱は眉を寄せたが、あやのは首を傾げた。
「テル! ほら、帰るぞ」
テルの首根っこを掴んで、壱はカウンターで会計をすませてさっさと出ていった。




