自分がされて嫌なことは、人にしない
壱は調べがついたのでテルのいる個室に向かう。
テルにあやのを呼んでもらって、解散する予定だ。
テルはもう調べ終わっただろうか。
壱は個室のドアをノックして、テルを呼ぶ。
「テル……?」
返事がない。小声で再度呼んでみる。
「おい。照三、返事しろー」
壱が呼んでも返事をしないのは、喧嘩をしているときくらいなのに。
身体に悪いものでも食べたのだろうか。
テルなら、毒キノコくらいは容易に口にしそうだ。
壱は目を細めて、鼻息を荒くした。
「開けるぞ」
外から開けられる作りになっているので、戸を押すと開けられる。
「何だ。起きてるじゃないか。何で返事しないんだよ。腹痛起こしてるのかと思った」
テルは顔を机に乗せて、だらけている。
顔をこちらへ向けて睨んできた。
壱も睨み返す。
「しかもやってないし。手伝うとか言っといて、それはないだろ。言ったことは守れよ?」
「あーうるせーのがきた……」
「うるさくない。声は抑えてるし、俺は当たり前のこと言ってるだけだ」
「そういう当たり前のことが一番うざいって、壱さんは知らないわけぇ? 正論ばっか言ってるやつはな、嫌われるんだよ。ま、壱さんは心配しなくてもぉ? 嫌われ者ですけどねー」
「……嫌われる、嫌われるって何だよ。その言い方」
「何か言い返してみろよ。オレを傷つける言葉、頭のいいおまえだったら、どんどん出せるはずだろ。何で言わないんだよ。何で腹ん中にずっと秘めたままなんだよ。気持ちわりぃんだよ」
テルがまくし立てる。
壱は眉を下げて、テルに言った。
「お前は十分傷ついてるじゃないか」
「……はっ?」
鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして、テルは素っ頓狂な声を上げた。
壱は穏やかな顔で、穏やかな声で語る。
「言葉っていうのは、その人の人生が現れるもんなんだよ。俺もたくさん傷ついてきたけど、俺は人を傷つけたくない。自分が傷つくことは、したくない。そうやって人を傷つけても、お前の性格じゃ、虚しいだけだぞ。そんなんで勝った気になって、悲しくないのか? もし、お前がそういうやつだったとしても、何もいいことなんてないよ。言葉は人を貶めるだけから」
壱は、悪口は言わない。陰口も叩かない。
自分がされて嫌なことは、しない。




