拗ねる壱
(しかもテルにはさんづけ。俺には苗字呼びで、くんづけ。この差って……)
目を輝かせたあやのは、両の拳を握って、ふんっと鼻息を飛ばす。
「私、頑張りますね!」
「……何を?」
あやのは指をぐるぐると回して、言い淀む。
心なしか、目も回っているように見える。
「あの、その、あの、えーと…………あれです!」
「早くも老化が始まっている……」
壱は呆れた顔でひとりごちた。
「あー、オレが説明するわ。壱の計画通り、あやのちゃんにはオーナーを詳しく調べてもらう。オレと壱はネット。壱、あやのちゃんは意気込んでるだけだからな」
「そうか、わかった。話し合いって……」
「ななな何にもないですよっ!? 団子山くんのことは話していませんからね!」
激しく声が裏返っている。
しかも、顔は茹蛸のように真っ赤だ。
壱は口を尖らせて、小声でぼそぼそと呟く。
「俺だって、そんな話してるなんて、これっぽっちも期待なんかしてないし……。どうせ二人で楽しい話でもしてたんだろと思ってるし。俺が団子食べたくてたまらないときに、二人はテルさんあやのちゃんと呼び合って、仲睦まじく話し合ってたんだろうなとか思ってないし」
「あらら? 壱さんちょっぴり拗ねちゃま?」
「団子山くんって、面白いですねー!」
あやのは嫌味のない笑顔で壱を褒める。
あやのには調子を狂わされると壱は思った。
壱は伸びをして、肩を回す。
勉強漬けで、少々身体が鈍っただろうか。
「団子食べたいけど、先に調べるか……。春日井さん、よろしく」
「私も団子食べたくなってきました。奢ってくださいね」
「何で俺が……俺が奢って欲しいくらいなのに。テル」
「オレ金持ってないから、むーりー!」
テルは手を×の形にして、迫ってくる。
不快そうな顔した壱はぐいぐい押し返す。
あやのはクスクスと楽しそうに眺めている。
「遊びはこんくらいにして……」
テルが言うと、壱たちは頷く。
二人は既に帰り支度は整えていたようだ。
壱は学生鞄を持って、教室を出る前に自分のロッカーに入れていたキャスケット帽を被った。