あやのは壱に淡泊だった
「俺のこのノートは、俺の基準ですから、他人がわかるかどうかまでは……。それを目標に書いてはいるんですけども」
「見せてみろ」
教師に手を差し出されたので、壱はノートを手渡した。
教師はノートをぱらぱらとめくって、感慨深そうに見入っていた。
ふむふむ、なるほどと時折言葉を零す。
教師は手をポンと叩いて、壱に真剣な眼差しを向けた。
「団子山。ノート……コピーさせてくれ」
「え!」
こうして、壱のノートは公に晒されることになった。
聞こえが悪いのは、壱の私情による。
漸く補習から解放されて、壱たちは壱の教室で落ち合った。
口をすぼめてテルが手を挙げる。
「よっ」
「あ、団子山くん。おかえりなさい」
「ただいま……って、何でおかえりなさい? おかえりなさいって言ったら……」
何か不作法をしてしまったのかと、あやのが口元に手を当てて焦る。
「え? おかえりなさいって言ったらダメなんですか?」
「壱さんはめんどくさいところがあるからねん」
テルがあやのの肩に手を置いた。
あやのは合点がいったように、手を叩く。
「あ、そうなんですか」
「納得しないでくれる!? おかえりなさいって言ったらさ、春日井さんの家に帰ることになるんだけど。意味わかってて言ってる? だから……こんにちはとか、友達同士が交わすような挨拶でいいんだよ。春日井さんみたいな子は、変な人に捕まりやすいと思うしさ……」
壱は額に手を当てて、長々と話す。
悪巧みをしているような顔のテルが、あやのに吹き込む。
「壱は、あやのちゃんのことを心配してるんだよな」
「そうなんですか。ありがとうございます、団子山くん」
淡泊な礼だった。
好きな人だったら、こんな反応ではないだろう。
(テル、嘘ついたな……。春日井さんが俺のこと好きだなんて……真っ赤な嘘じゃないか)
「あ、そうだ。団子山くん、あのですね、テルさんと私、話し合ったんですよ」




