教育に答えなんてない
「いやほんともう、俺には日本の高等教育がぴったりなんですけど。何で義務教育期間なのに、高等教育受けられてるんですか、俺は。これこそ贔屓以外の何物でもないですよね? 先生って……もしかして、海外大学いく生徒狙ってます? 手柄になるから?」
「……た、確かに、それは私の功績にはなるが……」
教師はやりにくそうに、言葉を詰まらせつつぼやく。
壱はシャープペンシルをカチカチとさせて、はっきりと宣言する。
「じゃー俺は、国内の国立いきます」
「……地方の、か?」
「いえ、田舎もんからは卒業したいので、都内の国立大学で。先生の教え子が国立いったら、それは先生の手柄になると思うんですけど……でも俺中学生だから、高校の教師のほうが手柄になるんじゃないかと思いますけど」
教師はキョトンとして、腕を組む。
「直接かかわったなら、私の功績になるが。お前の進路相談に乗ったことになる。お前がこれからも頑張り続けてくれるのなら、私は大層褒められるな」
頬が引き攣る。
壱は乾いた笑いを漏らした。
「すんごいプレッシャー……」
「だが、私はお前だけに肩入れしているわけでもないんだ。勉強の嫌いな生徒を勉強好きにさせれば、教師としての箔がつく。私の名も上がることだろう」
「教師の世界って、そうなってるんですねー」
「どこの世界でも、そうだと思うが。できる者を伸ばすのは簡単。できない者を伸ばすのが困難だ。できる者は勝手にやってくれるからな。逆に、できない者は勝手にやってくれない。わからないことを放置したままにして、どうでもいいと投げ出してしまうんだ」
教師の興味深い話に、壱はうんうんと頷く。
「そうですね」
「人に教えることはな、どんな問題を解くよりも難しいことなんだ。正解がない。自分で考えるしかない。マニュアル通りに教えても、必ずマニュアルを逸脱する者が出てくる。……いや、マニュアルも……実はあまり役には立たない。人は機械じゃない、感情で動くものだ」
「マニュアルって、なくてはならないものですけど、そのマニュアルすら意味の成さない世界もあるんですね」
「そうだな。教師を長年やってきて思ったことだが、未だに答えが見つからない。どうすればわからない生徒がわかるようになるのか……お前なら、できるかもしれんが」




