自分の思い、自分の限界
続ける。
「先生は俺のことを持ち上げてくれますし、家族も……友人も俺を褒めてくれますけど、俺ってそんなに凄いですか? 俺は頭の回転は速いほうじゃないし、IQ200超えている人には敵わないと思いますし、俺より上の人は日本にもたくさんいると思いますよ。日本は小さい島国ですけど、世界に脅威をもたらしてきた国じゃないですか。こんなちっさい国が、大国に無視されずにいるんですよ。どこが狭い世界ですか。大きいですよ、十分。俺には、大きすぎるくらいだ」
この掌で知れること、守れるもの、それは少なすぎる。
今こうしている間にも、壱の知らないことはどんどん増えていく。
一秒よりも早く。
知識をどれだけ増やそうが、どれだけ遠い国へいこうが、人間はいつまで経っても無知のままだ。
壱は優しく微笑んだ。
「アドバイスありがとうございます。でも俺は……日本がいいんです。生まれ育ったこの国だから。俺はここで骨を埋めたい。でも……海外にだって、いきたいんですよ。留学とかも楽しそうだし、興味あります。けど、やっぱり俺は日本が好きな、日本人なんです。日本の学校社会に慣れているので、海外だと慣れるのに苦労しそうですよね」
教師は仕様がないといった顔をして、口元の力を抜いた。
「そうか。強要するつもりはない。そうしたければ、そうすればいい」
「はい。先生、補習お願いします」
「わかった。びしびししごいていく」
「俺、打たれ強いほうではないんですけど……」
壱が頬をかきながら苦笑いすると、教師は不敵に笑って物理の授業を始め出した。
黒板にはびっしりと文字が埋め尽くされ、唾が飛び交う。
まだ習っていないところから始められ、高校の物理学もやらされ、最終的には国内の最難関国立大学の入試までやらされた。
僅か一時間で。
猛スピードで頭に叩き込まれる目まぐるしい速度に、壱もたじたじだ。
「あの、先生? 俺まだ中二なんですけど」
「びしびししごくと言っただろう。お前ならできる。やれ」
「あの……」
命令口調になっている。
これは強要ではないだろうか?
非常に、団子が恋しい。
ノートに書き込むスピード、問題を解くスピードが落ちてきた。
壱は早口で喋る。
「きてますきてます。俺結構限界きてます。自分の限界わかった気がします。世界なんて無理でした。俺はやっぱりたいしたことないんですよ。海外いくまでもないです」
「喋りながら問題を解くな……! 口を動かす暇があったら、手を動かせ」
教師の監視の目を躱しつつ、壱は問題集と睨めっこする。
手が動くスピードが戻った。




