集中力だけなら、誰にも負けない自信がある
テルは目を合わせてくれないと思っていたが、ひらひらと手を振ってくれている。
テル以外にも、テルの友達と思しき男子生徒数人が、壱を見て笑っている。
笑われているのではないことは、纏う雰囲気でわかる。
壱も手を振り返す。
教科書を持った物理の教師が壱を見て、提案を持ちかける。
「団子山、授業で習った分は補習でどうだ。お前は補習したことないだろうが」
「わかりました。お願いします」
「放課後、時間を作る。補習室にこい」
壱ははっきりと返事をして、席に座った。
テルには、あとでちゃんと謝ろう。
謝る機会を逃してきたが、謝らなければ前に進めない。
いつまでも引っ張ってしまう。
でも授業にも集中したい。
集中していれば、余計なことを考えなくてすむ。
壱は机の中から教科書とノートを取り出して、超スピードで板書を写した。
教師の板書だけを写していても、勉強にはならない。
ノートは自分なりにアレンジするのが大事。
壱のノートは、『誰が見てもわかりやすいように』を目標に、詳らかに書いている。
言うまでもなく、『誰が見ても』の中に、幼年は入っていない。
精々、小学生からだ。
シャープペンシルを、こめかみにトントンと押し当てる。
(ここはちょい難しめ……)
集中力だけなら、誰にも負けない自信がある。
授業が終わったので、一旦集中力を切らせた壱は、テルがくる前にテルの机にいった。
テルもちょうど壱のところへいこうとしていたみたいで、二人は笑い合った。
壱は情けない顔をしつつ、テルに真剣に言う。
「テル。あのさ、ずっと、謝りたかったんだよ。ずっと」
「……オレも。ごめん、壱」
頬をかきながら、テルがはにかむ。
壱はテルに頭を下げた。
「俺が悪かった。ごめん、テル。もし、お前が春日井さんのこと好きだったら、俺が色々遠慮するって思って、怒ったんだよな……。そのときに気づかなくて、ごめん」
テルの表情を確認したいがために壱が顔を上げようとすると、テルは頭の上に手を乗せる。
更に体重をかけてきたので、壱は当惑した。




