それでも、人を嫌いにならない
壱は最後の言葉を尻すぼみで呟く。
「…………とう」
保健委員が去っていくと、壱は深いため息をついた。
やっぱり自分は嫌われている。
ああいうことを本人の前で言える辺り、自分も嫌われてもいいと思っている連中だろう。
猫を被らないのは好感が持てるが、遠回しに死んでくれと言うのはどうかと思う。
冗談を言っているみたいな声音だったが、今の感傷的は壱は傷つく。
(……ここで嫌いになるのが、ふつうなんだよな……)
それでも、壱は人を嫌いにはならない。
大嫌いな人にでも、手を差し伸べることができる人がいるからだ。
人間不信にもならない。
壱はベッドで暫く頭を休ませてから、テルに謝ろうと思った。
テルが腹を立てた理由は――、きっと。
壱が長い間眠っていると、テルは三人の友達と一緒に保健室にやってきた。
テルは壱の心配をしていた。
大親友が倒れたのだから、当然といえば当然だろう。
こっそりとベッドの近くに寄って、テルは壱に声をかける。
「壱……大丈夫か」
テルの後ろから、友達が顔を覗かせて壱の様子を窺う。
「団子山、テルがきてくれたぞ。起きろよー」
「団子山くん、生きてるか?」
「いっくん、だいじょーぶ?」
一人だけ、やけに背の低い男子生徒がいた。声も無駄に高い。
壱は寝返りを打つだけで、返事をしなかった。
起きているか、寝ているか、判明しない。
テルは頭をくしゃくしゃとかいて、荒っぽい声で壱に訊ねる。
「……おいおいおい……。狸寝入りか、壱さん?」
「寝てるみたいだな。邪魔しちゃ悪い。帰ろうぜ」
「団子山くんは団子の夢でも見てるんだろ。ほら見ろ、よだれが出てる」
友達の一人が指を差して、呆れた顔で言った。
見ると、確かに壱は幸せそうな顔をしてよだれを垂らしていた。




