嘘吐きには好物なしの罰
「あー、これ? 近所のスーパーでみたらし団子の山ができてて、危うく頭から突っ込みそうになって……滑って転んで人にぶつかって店員にこっぴどく怒られた」
「あなたならありえるけれど、それは嘘でしょう。白状しなさい!」
母親の一喝に、壱は後頭部をかきながら唸る。
目を逸らしつつ、正直に答える。
「テルと喧嘩した」
「テルくんと……? どうしてまた」
「ムカッときたから、喧嘩した。でも仲直りしたから」
壱は本当のことを言わなかった。
母親はそんな壱の様子に気づいている。
母親の目が鋭くなる。
「壱」
「はい」
「今日は団子抜きね」
その一言で、壱はその身に落雷を受けたかのような衝撃を受けた。
「……ええっ! 嘘だろ? 嘘だと言ってくれよ!」
斜め上から見下げられるこの角度は、恐怖の女王のような風格がある。
「嘘吐きに食べさせる好物はありません。お母さんに本当のことを言わない子は、罰として暫く健康的な食事をさせます。今日の晩御飯はたっぷり野菜スープとパンね」
「ちくしょう、拷問かあ!」
壱は玄関で蹲って、床を叩いた。
泣きそうになっている壱の元へ、喜色満面の二子が現れる。
「にーに、おかえりー」
壱は顔を上げて、二子の可愛さに癒される。
「ただいま二子……。お前だけが俺の癒しだよ……!」
「にーに。たまにはおやさいもたべるのれす!」
ビシッと指を突きつけられて、壱はまたもや衝撃を受けた。
「違うよ二子。俺はべつに野菜が嫌いなわけじゃないんだって。団子が好きすぎるだけなんだって。だから野菜はべつにあってもいいんだよ! でもな、団子だけは毎日の俺の主食……」
「さいきん、まーまがにーに、おやさいたべないって」
「それは、団子食いすぎて腹いっぱいになってるだけで……決して野菜が嫌いというわけでは」
「にーに、はんせい!」
「はい……」
玄関で小さい妹に正座をさせられている兄の姿。
壱は嫁の尻に敷かれるタイプだろう。
二子はほわほわした顔をして、両手を広げる。
「にーに、おんぶー」
ため息をつきたくなるくらい可愛い妹の仕草。
壱は息をついて、適当に返事をする。
「はいはい……。でも兄ちゃん、服とか汚れてるぞ? 汚いのは、嫌いなんじゃないのか?」
「いーの。きたなくても、にーにはにーに」
二子は壱の後ろに回って、壱の背に覆いかぶさった。
すりすりと頬を押しつけている。
壱はしっかりと二子を支えて、立ち上がる。
「それじゃ、俺がいつも汚いみたいじゃないか。あんまりだなぁ、もう。でも二子だから許す」
「にーに、だいすきぃ」
「あーもう、二子は可愛いなああ。団子の次に大好きだ……。あの鬼母から、何でこんなに可愛い妹ができあがるんだよ……詐欺だよ、マジ……」
二子が首に手を回してくる。
一回だけ跳んで壱は二子の背負い位置を直す。
リビングまで歩いていって、戸を開ける。
二子をテーブル手前のソファに下ろすと、壱は洗面所に向かった。
制服を脱いで、シャツを洗濯してもらうのだ。
でも、ブレザーだけはクリーニングに出さなければならない。
母親は金銭感覚が狂っているので、クリーニング代がどうこうという文句を言われることはないのだが、制服を汚すのはできるだけやめておこうと壱は思った。
(……きたね)
ブレザーを面前に掲げつつ、壱は心中で毒づく。
予備の制服はあるので、明日はそれを着ていけばいいのだが、あまり怒られないようにしなければ。
母親の機嫌を損ねるような真似をすれば、いつ団子グッズを売り払われるか、わかったものではない。
靴下を脱いでシャツをネットに入れて洗濯機に放り込んだら、洗面台でバシャバシャと顔を洗い、二個目の団子コップを持ってうがいをする。
洗面所に用意されていた団子のTシャツとズボンを着用し、壱は洗面所をあとにした。
洗面所を出た直後、二子と鉢合わせる。
二子は両手をメガホンのように口元に添えている。
「にーに、ごはんですよー」
「今いってるところだって」




