俺たちは、人間だから
「二重人格? そういう面って、誰にでもあるものだと思うけどな。テルだけに限った話じゃないだろ? 俺にだって、矛盾した考え方はあると思うしな」
壱がテルをフォローするように言うと、テルは俯きつつ、低い声で訊く。
「おまえを、貶めたいとか思ったりするのは、誰にでもあることなのか?」
「……え?」
テルの声に驚いて、テルの発言に驚いた。
間の抜けた返事しかできない。
テルは目を血走らせて、心臓を掴むような手の形にして、両手を眺めた。
不穏な動きだと思い、壱は冷や汗をかく。
「オレは自分で自分が怖い。オレはおまえの友達なのに、おまえはオレの友達なのに。時折どす黒い感情がオレを支配して、おまえをどうにかできないかと思ったりするんだ。これを聞いたら、多分おまえはオレと友達ではいられなくなるだろうなとか思ったりもした。時々止められなくなって、おまえに怪我させたいとか思うようになって……おまえがオレを諫めてくれないと、オレはどうにかなりそうだ」
「……」
壱は心中を吐露する大親友をじっと見つめた。
テルの身の周りに何かが起きたことは明白だ。
満たされていないのではないだろうか。
初めから彼に犯罪者の素質があったのならば、壱は今頃どうなっていたかわからない。
テルの心に、突然変異が起きたのかもしれない。
テルは額を押さえて、天井を仰いだ。
嘆いているように見える。
「おまえは大事な友達なのにな」
壱は一つの結論に至った。
「……自分の汚い部分と、向き合えないんだな」
「何?」
テルが、見上げる。
その顔は、酷く疲弊しきったものだった。
壱は微笑んだ。
「俺にだって、あるよ。俺も人間だから。羨ましいとか、恨めしいとか殴りたいとか思ったりもするし、嫉妬したりするし。それがふつうじゃん。誰にだって、他人を傷つけたいと思ったことだって、あるだろ。最初っから綺麗事ばっかり並べられるやつなんて、いねーよ。そいつ、洗脳されてんのかよ。そんなの、人間じゃない。何でそれを受け入れようとしないんだよ。……俺たちは、人間だろ?」