キチガイなんて言葉を人に向けて言っちゃいけない
「なん……っ、キチ? マジキチって何だよ」
「マジでキチガイじみてる」
壱は絶句した。
目の前が真っ白になったかと思った。灰色だろうか。
みんなにどう思われているのか、よくわかった気がする。
壱は割とみんなに嫌われているらしい。
壱は視線を落として、机に拳を乗せた。
「……俺、そんなにみんなに悪いことしたっけ……?」
「そんな落ち込むなよ。壱がキチガイなのは、前からだろ。団子好きすぎる人なんて、世界中探してもおまえくらいしかいないって。誇りに思えよ壱さんやーい」
「キチガイって言うな! 人を狂人みたいに……。俺はどこにでもいるふつうの中学生男子だ」
「どこにでもいられると困るな。キチガイ壱さんがいっぱいいると流石にキモ……」
何度も連呼するので、壱は冷ややかな目で宣言する。
「次言ったら、絶交」
「すまん」
あっさり謝った。
「壱ー、遊び心を忘れるなよー」
「いや、それ、人に言っちゃいけない言葉だから。人に向けて言ったらダメだから。どうしても言いたかったら本人の与り知らぬところで言うしかない言葉だから。俺は使わないけどな!」
「いい子ぶるなよー。オレたち、中二だぞ? 覚えたばかりの言葉を使いたくて仕方ない年頃だぞ? 一番頭おかしくなる年頃だぞ? おまえもすぐに使いたくなるから。キチガイって」
悟ったような表情で、ポンと肩に手を置かれた。
壱は眉を引きつらせながら、テルの手を払い除けた。
「意味わかってて、言ってんのか?」
キチガイは気違い、気狂いと書く。
常軌を逸脱している人や発狂している人のことを指すものだ。
使う人は何とも思わなくとも、使われた人は気持ちがいいものではないだろう。
冗談で言うこともあるが、冗談でも言われて気持ちのいいものではないと壱は告げた。
テルは申し訳なさそうに頬をかく。
だが、口は災いの元。
「壱なら許してくれるだろーって思って、言ってる」




