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「柚木聞いた?塩崎の話」
野々村が声のトーンを落として話しかけてくる、休憩室。
「やんわりとは……なんかヤバいことやったんだって?」
「おっ、あんたが情報仕入れてるなんて珍しいじゃん」
「だって更衣室でも給湯室でも嫌でも聞こえてくるよ」
「塩崎、辞めるかも知んない」
塩崎とは、私たちの同期入社だが。
私たちとは一線を画していた。
とても仕事熱心で、いつも業績はトップ。
言いたいことははっきり言うタイプで、私たちお茶を濁すタイプとはそりがあわないようだった。
「辞めるかも…って、そんなにヤバいことやらかしたの」
「というより塩崎がメンチ切ったんだよ、もう我慢ならねえって」
「ああ、昇進の話」
塩崎は会社を内側から変えてやるって息巻いていた。
昇進したくてずっと誰より仕事を頑張ってたのは皆知ってる。
でも面接で部長課長が『まだ若い』とか『先輩達もまだ主任じゃないのがいる』とかって、本人を説得したらしい。
それに塩崎は激怒したのだ。
あんな仕事をただのルーティンとしか見てない奴らと一緒にするな、と。
本当は気付いてる、そんなの建前だ。
塩崎が中々出世出来ないのは、他ならぬ『女だから』、それだけ。
未婚の塩崎にも当然これから結婚、出産の過程があると会社が踏んでいる。
昇進した途端に休まれては仕事に穴が開く。
それで渋っているのだ。
「ったって、実際出産したら出世なんてほぼ100%無理なのにね」
「本当だよ、子供が熱出して休むのはいつも妻だもん、それに文句言われるのはオカシイよね」
ああ世知辛い、アラサーの道。
陰ながらロックな塩崎が結構好きだった私は(向こうは嫌いだろうけど)、少しだけ彼女に同情した。




