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EARTH‐MASTER ―篁 葉月編―  作者: 早藤 尚
14/15

PRE:05 Back to the future

「篁は、進路どうすんの?」

 唐突に、なんの脈絡もなく、東海林が僕に訊いた。

 ぼんやりと窓の外を眺めていた僕は、瞳だけを動かして、校内一の人気者を見る。

 僕の前の席に陣取る東海林は、長めの髪をヘアバンドでまとめ、制服のシャツの代わりに派手派手しいロゴが入ったTシャツを着ていた。ネクタイにいたっては影も形も見当たらない。そんな格好でよく注意されないな、と思うのだけど、どうやら教師達ももう諦観しているらしい。なんてことだ。

 そういう僕も、東海林の外見については一度も言及したことがないから人のことは言えない。

「進学するよ」

 僕は東海林に告げた。

「あー、そうだよなぁ。うん、お前はそんな感じ」

 なんだかよく判らない納得の仕方をして、東海林はひとりうんうんと頷いた。

 休み時間の喧騒が何故か遠く聞こえる。

 僕はまた窓の向こうに視線を戻し、

「東海林は?」

 たいして興味はなかったけれど、そう尋ねた。

 校庭のフェンスに沿って並ぶ桜はもうほとんどが風に飛ばされて、アスファルトの舗道を淡いピンクに塗り変えている。

「俺かあ……。俺はなー。そうだなー、篁とおんなじ大学、行けたら楽しそうだと思うけど」

 まあ無理なんだけどな、と東海林は自分の台詞を笑い飛ばした。

「いろんな意味で無理だから」

 とりあえず僕はそう釘を刺す。

 ただでさえ、人気者の東海林が始終傍にいるおかげで、受けたくもない好奇の視線にさらされているというのに、このうえ大学にまでついてこられたらかなわない。

 僕はひっそりと、誰の記憶にも残らずに消えてしまいたいのに。

 東海林はどこか遠くを見つめるような、それでいて過去を懐かしむような、そんな眼差しで教室の天井を仰いだ。

「そうなんだよな……。ま、そんな未来があったら、それもありじゃねーのってだけの話」

「……なんだか、まるでそんな未来はないみたいな言い草するね。実際僕と同じ大学に入ったら僕は物凄く迷惑がるけど、東海林の進路については文句言わないよ?」

「優しいようできっついこと言うなぁ……」

 東海林は苦笑いを浮かべた。

「だいたい、高校みたいにクラス分けとかないんだから、こんなふうに一緒に居たりすることないし」

「そうだろうな」

「僕は、べたべたするのは嫌いだ」

「それはよーく身に染みてる」

 東海林があんまり感情こめて言うもんだから、僕は少しむっとしてしまった。

 そんなことお構いなしに東海林はけらけら笑っている。

「大丈夫だよ。篁とおんなじ大学なんて行かねーよ。どうせがっちがちの頭良いとこ受けるんだろ」

「まだ決めてないけど」

「俺はただ、」

 そこでいったん口をつぐむと、東海林は束の間逡巡して、

「……ただ、篁ともうちょっと一緒に――毎日を過ごしたかっただけだよ。お前、案外面白い奴だったからさ。それだけだよ、気にすんな」

「…………」

 突っ込みたいところはたくさんあったけれど、とりあえず言われたとおり気にしないでおくことにする。

 東海林はうーん、と腕を天井に向けておおきく伸びをすると、僕に向き直った。

「まー俺達はドライな関係ってことで」

「……卒業したあとも続くの、それ」

「お互いの気分次第だろ。アレだな、何年とか何十年経っても、つい昨日別れたみたいなノリで話し始めるんじゃね?」

 それは想像したらなんだか面白くて、僕は自然と口の端を緩める。

「ふぅん。そういうのもいいね」

「それでどっちかが相手のこと忘れてたら悲しいけどな」

「――僕は覚えてるよ」

 なんとなく、根拠はないけれど断言した。

「東海林みたいな変わり者、忘れる方が難しい」

「よく言うぜ。篁の方がずっと変わり者だろー? お前みたいな変な奴、俺だってきっと一生忘れねーよ」

 お互い様だ、と僕達はこっそり笑った。



 それは桜の季節も終わる頃で、僕はまだ何も知らなかった。

 ただぼんやりと、過ぎる時間を浪費していた、春の日。

 ――訪れるはずのない未来を、君はどんな気持ちで語っていたのか、僕は今でもわからない。



fin…


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