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あるだけ盗め!  作者: けら をばな
第一章・音もなく盗め
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五、『勝手気ままな独裁者』

 天守閣。街を見下ろす、(さむらい)烏帽子(えぼし)をかぶり、直垂を着用し、左右十五センチは伸びた立派な髭を生やした男の姿。

 この男こそ、この小谷城領主・広尾忠長である。(よわい)六十二。

「領主様」

 一人の小僧が、襖を開けて入ってきた。

「領主様、例の新しい側室の件ですが……」

「おお、何か進展があったか、それとも何か問題があったか」

 忠長は振り向いて、その皺だらけで角ばった顔と、ぎらぎらした瞳を小僧に向けた。小僧は依然顔を伏せたままだ。

(おもて)を上げい」

 忠長がそう命じると、小僧は従順に顔を上げた。その顔にはうっすらと化粧が施されており、濃い紅が唇に塗られていた。忠長は嬉しそうに、己の分厚い唇を舌なめずりする。

 小僧は動じず、

「問題と申しましょうか……三田村優香の許に遣わせた〈竜胆(りんどう)五人衆〉が戻ってきません」

 と答えた。忠長は短く、

「何?」

 と言ったきり、顔をしかめ黙りこくってしまった。小僧はその静寂を嫌うかのように、

「〈竜胆五人衆〉について、三田村優香周辺から本人にも直接問い質した所、皆口を揃えて『着たには来たが、優香が頑とした態度を取ると大人しく帰って行った』と」

 と切り出すと、忠長は納得したように頷いた。

「ほう。……まあ、〈竜胆五人衆(きゃつら)〉は心配いらんだろう。あれほどの能力者たちじゃ。大方、どこぞで酒でも(あお)っているのだろう。〈能力者〉と言った所で、きゃつらめ、元々はただのチンピラ共でしかないからのう。しかし問題は……街の者共に侮られることじゃ。侮られて、好き勝手やられると面倒じゃ。少々灸を据えねば、な。街娘の一人や二人、どうにでもなると言う事をしっかりと見せつけねばなるまいて。……それはそうと、良太」

「なんでございましょうか」

「今夜、儂の部屋に来い。可愛がってやるからな」

「……然り」

 にやりと笑みを浮かべる忠長に、小僧は眉一つ動かさず、従順に答えた。


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