五、『勝手気ままな独裁者』
天守閣。街を見下ろす、侍烏帽子をかぶり、直垂を着用し、左右十五センチは伸びた立派な髭を生やした男の姿。
この男こそ、この小谷城領主・広尾忠長である。齢六十二。
「領主様」
一人の小僧が、襖を開けて入ってきた。
「領主様、例の新しい側室の件ですが……」
「おお、何か進展があったか、それとも何か問題があったか」
忠長は振り向いて、その皺だらけで角ばった顔と、ぎらぎらした瞳を小僧に向けた。小僧は依然顔を伏せたままだ。
「面を上げい」
忠長がそう命じると、小僧は従順に顔を上げた。その顔にはうっすらと化粧が施されており、濃い紅が唇に塗られていた。忠長は嬉しそうに、己の分厚い唇を舌なめずりする。
小僧は動じず、
「問題と申しましょうか……三田村優香の許に遣わせた〈竜胆五人衆〉が戻ってきません」
と答えた。忠長は短く、
「何?」
と言ったきり、顔をしかめ黙りこくってしまった。小僧はその静寂を嫌うかのように、
「〈竜胆五人衆〉について、三田村優香周辺から本人にも直接問い質した所、皆口を揃えて『着たには来たが、優香が頑とした態度を取ると大人しく帰って行った』と」
と切り出すと、忠長は納得したように頷いた。
「ほう。……まあ、〈竜胆五人衆〉は心配いらんだろう。あれほどの能力者たちじゃ。大方、どこぞで酒でも呷っているのだろう。〈能力者〉と言った所で、きゃつらめ、元々はただのチンピラ共でしかないからのう。しかし問題は……街の者共に侮られることじゃ。侮られて、好き勝手やられると面倒じゃ。少々灸を据えねば、な。街娘の一人や二人、どうにでもなると言う事をしっかりと見せつけねばなるまいて。……それはそうと、良太」
「なんでございましょうか」
「今夜、儂の部屋に来い。可愛がってやるからな」
「……然り」
にやりと笑みを浮かべる忠長に、小僧は眉一つ動かさず、従順に答えた。




