四、『ネタバレ・殺しました。』
そんな余裕ぶった二人の態度に四人の役人は熱り立つ。一番若い男が左手を構え、空気を集め弾を作り、綾音に向け、
「動いたら打つぜ」
と威嚇。綾音はやれやれと言う風に肩をすくめる。
「あんたのは、さっきので大体分かっちゃったよ。技っていうのはね、そう何度も何度も見せるもんじゃないよ」
「ンだとしゃらくせえッ!!」
男が空気弾を撃ち込んだ。
綾音は、いつの間やら懐から取り出していたパチンコ玉のような石を手に持ち、黒マントの間から手を出し、人差し指と薬指で挟んで中指で弾いて、空気弾めがけ飛ばした。そのパチンコ玉が空気弾と接触し、パンと弾け飛んだと同時に、風は凪ぎ、空気弾は消えた。
驚いたように、あんぐりと口を開けたその男は、己に向かって飛んできたクナイにも気付かず、それを大人しく頭に受けて、絶命した。
「……他愛ない。自分の技の弱点も知らなかったみたいだ。かわいそうに。調子乗ってると足元掬われるって言う、いい例だよ」
綾音はクナイの先に結ぶ紐をぴんと引っ張り、間髪いれずに懐に左手を突っ込んで、そのまま手裏剣を二枚同時に投げる。狙われた二人のうち、一人は能力も見せずに絶命、もう一人の長髪の役人は、抜いた刀でガキンと手裏剣を飛ばし防ぐ。
その長髪の役人が、前へ出て刀を天に掲げ、
「俺は加護により闇を作り出せるッ!! 俺の漆黒の海の中で足掻くがいいッ!!」
と猛りを上げた。(いちいち言わなくていいのに)と綾音は半ば呆れ気味に呑気に構えていると、その男の言う通り、一瞬のうちに目の前が真っ暗に包まれてしまう。
何も見えない。真っ暗闇に支配される。
「ハハハハ! 何も見えまい! 足掻け! 恐怖に震えろ!」
長髪の声が暗中に響く。
(何こいつ、調子乗ってるな、腹立つ。むう。でも、確かにこれはなかなか厄介な能力だな。何にも見えないや。……まあ、だけど、今回の所は相手が悪かった)
長髪の男は、じっとして動けない綾音を見て、ふふんと鼻で笑い、刀を構え、余裕の面持ちで綾音に近付く。もう勝ったも同然。
とその時、かちゃりかちゃりと何やら不思議で不吉な音が聞こえた。
長髪の背筋がぞぞりと凍る。
音の方を見る。
白髪の女が、刀を揺らしてゆっくり近付いて来る。女の瞳は、はっきりと長髪の男を捉えている。……そう、見えているのだ。そして何よりその瞳は、先程までのそれとは違い、炯々と金色に光り輝き、猫のように瞳孔が縦にすっと縦長に切れ込んでいる。
「お前……俺の闇が、効かぬのか……?」
何が彼をそれ程までに怯えさせるのか、長髪の男の声は、かわいそうな位に震えている。
「闇、ですって? 冗談でしょう。こんな鈍らな闇があるもんですか。闇って言うのは、もっと深くて、冷たくて生温かくて、不安で孤独で、それでいて安心できるものなのよ。そういうものなのよ。……いえ、そうでなければならないの。そうでなければ、人間は生きていけないの。人間はそれ程強くはないの。……あら、ぽかんと口を開けて。……分からないかしらね。でも分からせてあげる。すぐに、本当の闇を見せてあげるわ」
美矢実は、その金色の瞳で、長髪の男を真っ直ぐに見つめ、にたりと笑い、腰を落とし刀の柄に右手を置いた。男はひっと悲鳴を上げて、その場にへたり込む。
「いかん!」
他人を硬直させる〈能力〉の禿げ男が、構え、呪文を唱えた……が、時既に遅し。
美矢実の体の自由を奪った頃にはもう、彼女の刀は、長髪の男の頭から股間までを縦一閃に切り裂いてしまっていた。
同時に綾音の視界が晴れる。その目に禿げ男の姿が映じる。
「さて、終いだ」
投じたクナイが、禿げ男の喉元にぐさりと通り、ばたりと呆気なく倒れた。
綾音はいつも通りと言わんばかりに、紐を引っ張ってクナイを回収。
五人の役人は、綾音の言葉通り、見事に皆殺しにされた。
残ったのは、肉隗と大量の血の溜まりだけだった。
その一部始終を見ていたのは、優香と凜だけで、他のものは、騒ぎに怯え、家の中にじっと隠れていた。そして役人共の声が鎮まると、家の中から顔を出し、その凄惨な光景を見止めると、「ひっ!!」という悲鳴を上げて、また引っ込んでしまった。
「……さーて、片付けるわよ」
「はーい」
溜息交じりの美矢実の声に、綾音は元気よく笑顔で答えた。




