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あるだけ盗め!  作者: けら をばな
第一章・音もなく盗め
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三、『殺してしまってもかまいませんか?』

 凜と呼ばれたその子供、歳は十を過ぎたばかりか、小さくてか細いその体、真ん丸で大きい目、小動物の様に鼻が低く、ぷにぷにとした頬、体はほっそりとした感じで、要するに可愛らしい。中性的で、一見すると女の子にも見えるが、短い髪、くしゃくしゃの(くくり)(ばかま)(裾を膝下辺りですぼめた袴)を穿いている所を見ると、やはり男の子だ。そしてその名の通り、凛とした太い眉を備えている。

 凜は両手に二つずつ、計四つの石を持って、可愛らしい瞳で必死に役人共を睨みつけている。

「その人から離れろ」

 可愛らしい声で必死にドスを利かせる。そんな凛に対し、石を当てられた役人とは別の、先程空気の弾を飛ばして優香を脅した一番若い男が一人、へらへらと笑いながら歩み寄る。

「なあ、これはな子供が首を突っ込んでいい話じゃないんだよ。坊主は引っ込んで――」

 凜は男に向かって右手の二つを一度に投擲。男は苦々しく顔をしかめながら、

「小癪なッ!!」

 と叫んで、左手を構えた。すると先程同様、風が起こり、左手にギュルギュルと渦が巻き、一つの弾丸を作って、それを射出。飛んで来る石を粉々に砕く、筈だった。凜の投げた石は空中で突然ギュンと曲がりくねって、空気の弾丸を避け、男の顔面に派手に直撃した。

「気をつけろ! こいつ〈能力者〉だッ!!」

「この糞餓鬼ァ!!」

 この男は、忠告も聞かずに突っ込んだ。

 凜は石を投げる。

 今度はぐりゅぐりゅと蛇の様に曲がりくねりながら男に向かう。男はそれを目掛けて、空気の弾丸を四方八方に叩き付ける。地面に当たり砂煙をあげたり、民家の屋根を壊したり、壁に穴を開けたりしたが、どれもこれも石には当たらない。

 と、そのあちらこちらを飛び回る石だけに気を取られ、もう一つの違う石が男めがけて飛んで来るのに気付かなかった。男がその石を発見したのは、顔面から数センチの所だった。

(もう遅い)――凜の可愛らしい瞳がにやりと笑う。

 当たる。と思いきや、男に当たる寸前、その石が空中で完全に静止した。

 呆気にとられる凜。見ると、別の禿げ頭の男が、両手を組みながら何やらぶつぶつと呪文を唱えていた。

(こいつの所為か!)

 そして、髭面の男が、赤色にぼんやりと光る右手で、ゆっくりと石を掴むと、石は木端微塵に弾け飛んだ。

(しまった。こっちが一人に集中し過ぎた!!)

 そう気付いて、懐から石を取り出そうとしたが……体が、全く動かない。全身がかちこちに固まって、指先一つ動かす事が出来ない。呼吸さえも制限されている。苦しい。

 禿げ頭の〈能力〉発動。凜を睨みつけながら、ぶつぶつと低い声で呪文を詠唱していた。

 微動だに出来ぬ凜に、髭面の、仄かに光る右手が、ゆっくりと近付いた。

「おう、餓鬼、うちのモンに怪我させた罰だ、死んでもらおうか。なァに、安心しろ、痛みはねえさ。あの石とおんなじように、一瞬で壊してやるよ」

(どうしよう、どうすればいいんだ。何とかしなきゃ、死んでしまう。……でも、全然体がいう事を聞いてくれない)

 どうしようも出来ない。恐怖に、震える事すらままならない。目を閉じることも許されず、髭面のにやりとした笑みをじっと見続けるしか出来ない。右手が、凜の頭に触れる。

 ――もう、駄目だ。

 頭が吹き飛んで、そして首から血が威勢よく噴きだして……凜の頭に降り注ぐ。

 髭面の男の手が凜の頭に触れる頃には既に、その髭面の頭は、何ものかに粉々に砕かれ、絶命していた。

 何が起こったのか理解が出来ない。気が付くと、体の自由が戻っている。どさりと倒れゆく髭面の役人だったものを尻目に、顔を上げる。

 その視線の先には、右手に、紐の両端に血で濡れた鉄球を括りつけた武器らしきものをぶら下げた、見馴れぬ異国の上から下まで黒ずくめの恰好の男の姿があった。綾音である。

「調子乗った罰だ、死んでもらった」

 綾音は残りの役人四人を睨みつける。睨みつけられた方は、たじろぎ、どういうことかと目を合わせる。そんな役人どもには目もくれず、美矢実が呆れ顔で溜息をつき、地に転がる死体を面倒臭そうにげしっと足蹴にした。

「あーあ、どーすんのこれ。ゆっくり出来ないじゃない」

「心配しないで。ちゃんと皆殺しにするから」

 空恐ろしい事を平然と言葉にする綾音。

「しょーがないなー。もー」

 美矢実はやれやれと言う風に、束ねた髪を解く。

 その白く細い線は、サラサラと微風に踊る。そして、刀に左手を添え、にやりと笑う。『しょうがない』と言う割には、随分と嬉しそうである。


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