二十四、『無情』
リコ邸。累々と横たわる死体の合間を、我が物顔で美矢実は歩く。
「……あんた、何やってンだ?」
男の声。美矢実はその声のする方を見る。褐色のスキンヘッドに向こう傷。ミツルが、尻をついて壁に寄り掛かっている。
「何って、火事場泥棒だけど?」
さも平然と答える美矢実にミツルは、
「ったく、せこいことやってんなァ」
と苦笑。そして、真面目な顔を作り、少し遠慮気味に、
「……リコはどうなった?」
と聞いた。
「綾音が盗んだ。闇の中で見たわ。あなたの依頼は達成された。めでたしめでたしね」
「そうかい、それは良かった。……と言うかよ、おめえ、やっぱり弟を見に行ってたんだな。まったく、過保護なやつだ」
「大きなお世話よ」
美矢実が眉をひそめると、ミツルはふふっと力なく笑った。
そして、ふうっと安堵の溜息をついて、懐から煙管とマッチを取り出した。煙管に葉を詰めて、マッチに火を灯そうとするが……点かない。手がかじかんでしまっていて、満足に動かす事が出来ない。美矢実はそんなミツルに見かねて、膝をつき、
「ほら」
とマッチを擦った。煙管に火は灯された。
「すまねえな」
と一言礼を言って、吸った。その先がほんのり赤く灯った。
「……リコはな、昔、自分の〈能力〉が制御できなくってな。無意識に男を誘惑して、それで何度も襲われていてな。父親も例外じゃ無かった。他の男同様、リコを襲い、そして自殺した。……あいつは、本当に苦しい思いをしていたんだと思う」
「……」
「……そして俺もまた、リコを犯した」
「……贖罪のつもり?」
「……っつってもよ、本当は、こんな中途半端な事するつもりじゃなかったんだぜ? ちゃんと最後まで見守ってやろう、俺の人生かけて償おうって、思ってたんだが……なんせこの騒ぎだ。俺の手には余った。せめて命だけでも守ってやんなきゃってな。……なあ。リコのことだがよ、どうか自由にしてやってくれねえか? あいつにはそれが必要なんだよ。それに、その自由を享受できるだけの強さもちゃんと持っている」
「あら。あなた、盗品の使い道まで指定する気? こんな火事場泥棒相手に」
「ああ。勝手だってのは分かってんだよ。それでもよ、なあ、頼むよ。この通り」
「……私ら姉弟はね、基本的に盗品の山分けはしない主義なの。綾音が盗んだんだから、リコって子は、綾音のモノよ。私がどうこう言えることじゃないわ」
それを聞いて、ミツルはただでさえ子供っぽい目を一層丸くして、そして愉快そうに笑った。
「そうかそうか!! なら、いい。あいつなら安心だ。俺にゃ分かるぞ。一目見た瞬間からな。あいつなら、リコを悪いようにやしねぇさ!! ……ハァ、そうかそうか。……あー。安心したら疲れがどっときやがった。……わりいが、ちょいと休ませてもらうぜ」
「そう。……さよなら」
「ああ」
美矢実は立ち上がり、ミツルに背を向け、立ち去った。
ミツルはその後姿をじっと見送っていた。ふうっと煙管を吸って、白い息を吐いた。
そして、目を瞑った。
ミツルの腹には、二本の槍が突き刺さっていた。
――〈無能力者〉の決起は失敗に終わる。
シュウ不在による指揮系統の麻痺は、想像以上に大きかった。この決起により、アイは死亡、首謀者ユカリはコズエの宣言通り、公然で首をはねられ死亡。それ以外に、〈能力者〉側・〈無能力者〉側、双方多大なる死傷者を出した。
この決起のすぐ後、女王・カナは辞意を表明。代わりにコズエが女王としてこの街を統治する事となる。そして、ユカリの思いとは裏腹に、この決起を大義名分とし、以後〈無能力者〉に対する弾圧は勢いを増す事となる。
が、それはまた別の話。




