二十五、『とりあえずここまで』
美矢実と綾音は、馬に荷物を括りつけて、二人、街を出た。ここから馬は荷物運び専用で、二人とも自らの足で歩かなければならない。美矢実ははあっと溜息をつく。
「さよなら、ふかふかお布団」
「居心地良かったからね。また大変な旅の始まりだよ。しっかりしなきゃね」
綾音はいつも通り、説教臭い事を言う。美矢実は綾音をじとっと睨みつける。
「……あんた、いいの? あの女置いて行って」
綾音は、ついさっきの出来事だったのに、遠い昔を懐かしむような笑みを浮かべる。
「いいよ。ずっと苦しい思いしてたんだから自由にさせてあげたい。……出来るよ、リコなら」
「……やったの?」
「ん?」
美矢実の質問の意味が分からず、微笑んだまま首を傾げたが……その意味が分かると、いきなり顔を真っ赤にし、目を尖らせて怒ったような顔と口調で、
「何で突然そんな話になんの!? やってない、やってないから!! 最初に言ったでしょ、そんなんじゃないって!!」
と慌てて否定した。美矢実はそんな綾音を見て、
「ああーそっかー、そいつは失敗だったかなー。一度抱いちゃえば大人しく諦めてくれたのかも知んないのにねー。まーそーゆー経験ないから分かんないけど」
もう一度、はあっと大きく溜息をつく。
「ミヤ姉、何言ってんのか全ッッッ然分かんない!! っていうか、何度も言っている通り僕は別にそーゆーふうにリコのことを――」
「綾音!! 待ちなさーい!! アーヤーネー!! コラー!! 置いてくなー!!」
街の方から、自分を呼ぶ女の声が聞こえる。
「……え?」
振り返る。真っ白で大きな馬に乗り、荷物を背負ったリコが目に入る。
綾音、びっくり。美矢実、三度溜息。
リコは二人の側まで走り寄ると、馬を降り綾音に詰め寄った。
「こら綾音!! 君は私を盗みに来たんでしょう!? なら責任取ってちゃんと私を連れていきなさいよね!! まったく!! 折角盗み出したものを置いて行くなんて、泥棒がそんなんでどうするの!!」
「え、え、えー!! ちょっと!! 何言ってんの!? 自由にしていいって言ったでしょう!?」
「じゃあ、私を連れていきなさい!!」
「えー!? 横暴!! ちょっと、ミヤ姉助けて!!」
「盗んだのはあんたよ。責任はあんたが取りなさい」
「えーっ!?」
「よろしくお願いしますお姉様!!」
「あー、『様』はやめてくれる? 目立つのあんまり好きじゃないから」
「分かりましたお姉さん!!」
「えーっ!!」
先を行く美矢実にリコは従い、あまりの事に固まっていた綾音も、急いでその後を追った。




