十五、『さてさて、何が始まるのやら』
安宿の女将・ミエはその息子と共に、暇そうに、椅子に腰かけていた。そこへ、黒ずくめの集団が、遠慮なしにずかずかと声もかけずに入ってきた。しかも、全員背が高く威圧感が大きい。突然の事に何事かと戸惑う二人。
「ここに一組、二人の姉弟が滞在しているだろう。すぐに出して貰おう。でなければ、少々手荒い手段を取らざるを得ない」
ひとりの男が、ドスの利いた、脅すような低い声で二人に聞く。息子の方はその態度に委縮して、
「あ、いえ、その……」
二人とも外出中で、という言葉がなかなか出て来ない。
黒ずくめの男はふん、と鼻で笑い、
「答えられぬというのであれば、先程忠告した通りに事を進めさせてもらう」
押し入ろうと足を進める。
あわわわわ、と手をこまねく息子とは対照的にミエは、
「何なんだいあんたたちは!! あたしんとこのお客様に、一切手出しは無用だよ!!」
と果敢にも立ち向かう。男は、
「邪魔だ」
と一言、ドスンとミエを突き飛ばす。老年のミエは、足の踏ん張りも聞かず、椅子をがたがたと倒しながら、床に体を叩きつけられる。
「ふん、年寄りが出しゃばるな」
倒れたミエを見下ろしながら、面倒そうに眉をひそめる。怯えながらもミエの許に走り寄る息子。ミエは痛みで起き上がることが出来ずにいる。それでも負けん気な性格からか、キッとその男を睨みつける。しかし男はそんな二人を無視して中へ入ろうとする。他の黒ずくめもがたがたと足音を立ててその男に続く。
――ゴトリ。
何かが落ちて床に落ちる音がした。すると、男に続いていた黒ずくめの足音も止まった。
「ん?」
男は不審がって、後ろを振り返る。黒ずくめたちは一同に、驚いた表情を自分に向けてくる。
「どうした」
男は聞いた。黒ずくめの中の一人が、口をぱくぱく震わせながら自分の右腕を指差す。
怪訝そうに自分の右腕を見ると……右腕の、肘から先が無くなっていた。
「うあ……うああああああああ!!」
それを確認した今更になって、激痛が男を襲う。血が噴き出す。
血の付いた、抜き身の小太刀を左手持った綾音が、先程ゴトリ。と音を立てて落とした男の腕を拾い、男に向かって投げつけた。男は自分の腕を受け取りながら、どうしてよいか分からず泣き喚く。そして綾音はミエとその息子の許に向かう。
「早い所、病院に連れて行ってあげて。下手すりゃ折れているかもしれないから。こっちは僕に任せて。……帰ってくる頃には片付いていると思うから」
「は、はい」
息子は、綾音の纏う禍々しい気迫に気圧されながらも、騒ぎ立てるミエを抱え上げて宿を出て行った。
そして綾音は、人殺しの目を黒ずくめたちへ向ける。
「……さてと、あんたたちのお目当てが現れてやったぞ。何が望みだ? 遠慮せずに言え。言わんのならば、無理矢理にでも体に聞く」
人殺しの目を冷たく光らせながら、小太刀を構える。黒ずくめたちも負けじと各々の武器を構える。
そんな所へ、スーツ姿の、煙管を燻らせた、背の低い小太りの男が姿を現せた。




