十一、『嫌な男』
ショウはその金髪のさらさらとした髪を揺らしながら、緋のマントを引き颯爽と、城内を我が物顔で、コツコツと大理石の床を快活に鳴らしながら歩いていた。
目の前に迫る、大きな扉。その前に立ちはだかる、鎧兜を身につけ剣を腰に差した屈強な男二人は、そのシュウの姿を見止めると、緊張し、背筋を伸ばし、
「どうぞ、シュウ様」
と言って扉を開けた。しかしシュウは、そんな扱いに、
「駄目じゃないか。いつも言っているだろう? 見知った顔でも簡単に通すなと」
と眉を八の字に曲げながら苦笑。護衛二人は更に畏まってしまい、手をこまねく。シュウは諦めたように「まったく」と溜息交じりに呟いて、
「ま、しっかり頼むよ」
と言って肩を叩き、中へ入り扉を手ずから閉めた。そして部屋を進み、寝室の前に立ち、我が物顔でその扉を開けた。
寝室には、病弱そうな、目の下に隈のある女がいて、ごつごつとした筋肉を身にまとった裸の男たちを五人程、傍らに侍らせていた。
――まったく、相も変わらず困ったお嬢様だ。
シュウは男どもに構わず女に近付いた。すると女も男どもの前だというのにもかかわらず、シュウに勢いよく抱きついて、口付けた。長い口付けの後、シュウは口を離し、ほっぽり出された男どもに向かって、
「悪いね」
と言ってウインク。すると男どもは、それがいつもの事だと言わんばかりに、服を着て、ぞろぞろ列をなして外へ出て行ってしまった。
シュウは目と耳を凝らし、男どもが完全に外へ出たのを確認。
「駄目じゃないか、アイ。リコ襲撃は君の差し金だろう?」
「だって……だって……シュウ。私はずっと不安なの。妹たち(あいつら)は、私の事を馬鹿にしてる。そして妬んでいる。いつ私を殺しに来てもおかしくない」
現女王・カナの直系にして長女。王位継承順位、堂々の第一位・アイ。順調にいけば、次期女王間違いなし。しかしその精神は、自己の肥大し続ける妄想に苛まれ、自分の思い描いた陰謀に怯え、猜疑に満ち、他人を疑う事を常とし、少しでも不備があれば、その類稀なる実行力でもって、殺す。政治的能力は、残念ながら持ち合わせておらず、それがまた猜疑の種となる。
夫の数は、現在十三人。だが、謀反を疑われて寝首を掻かれた夫の数はそれの倍近く。
アイはシュウの胸板に顔を埋める。シュウはそんなアイの頭をぎゅっと抱き締める。
「アイ、つらいだろうけど、今は駄目だ。我慢するんだ。何事にも時期というものがある」
アイはふるふると首を横に振る。
「駄目よ、駄目よシュウ。待っているだけじゃ駄目。いつか殺される。それに、……コズエには〈時期を知る〉という能力がある。正面から向かって、勝てる筈が無い」
女王・カナの〈時期を知る〉という能力は、コズエにしっかりと受け継がれていた。
シュウはにっこりと微笑む。
「大丈夫、大丈夫なんだ。僕がいる。僕が君を守る。誰にだろうと、君を傷つけやさせない。いいかい? 僕の言う事をしっかりと聞いて。……やるときには、全勢力を、一度に、一気に、だ。今はまだ、兵力を削るのは得策とは言えない。だから……アイ、今だけは我慢だ」
シュウは優しく優しく、アイの頭を撫でた。




