五、『大人ってなんか汚い』
褐色の肌と、金髪で、三十路程度の、すらっと細く長身の男が、緋のマントを翻しながら、つかつかと、あまり大きくない屋敷に向かっている。と、その屋敷の中からその男と同様の恰好をした、髭面の男が出て来た。その髭面の方は、金髪の男を見止めると、ばつが悪そうに、そそくさと逃げるように立ち去った。金髪の男は、髭面の後姿にくくくと含み笑いを投げかけて、屋敷の中へ入って行った。そして、ノックもなくある一室のドアを開け、入り込む。
中には、一糸纏わぬ、褐色の肌を晒した、男と同程度の歳の女が、暖炉の前に立っていた。
歳は確かに三十を超えているが、肌は瑞々しく、手足がすらっと細く長く、長く墨色の髪は、驚くほどに蠱惑的だ。女は開け放たれたドアに気付き、徐に顔を向ける。
「ああ、シュウ、来たのね。そう言えばそんな約束をしていたわね、忘れていたわ」
その男・シュウは、呆れたように女を見た。
「ユカリ、人との約束はちゃんと覚えておいて欲しいよ。下手すりゃ、今の奴がベッドをギシギシいわせてる所に鉢合わせたわけだ。勘弁願いたいね」
そのユカリと呼ばれた女はにやりと笑う。
「あら、それはそれで楽しみが増えるじゃない」
「生憎、僕はあんなむさいのは好みじゃなくてね。男も女も、可愛い方が良いのさ」
「あら、増えるのは私の楽しみよ?」
「ああ、そうですか」
そう言ってシュウはユカリに抱きついて、長いキスをした。それを終えた後も、ユカリをきつく抱きしめて、啄ばむようなキスを何度もした。シュウのそんな様子に、ユカリはせせら笑う。
「あら、嫉妬させてしまったかしら?」
「ん? 僕はそういう人間ではないと思うけどね。よく知らないけど」
「ふふふ、そうね。あなたはそう言う人だわ。そう言う人でなければならないわ。そうである必要があるもの。あなたは私をただひたすら求め、私はあなたをただひたすら求める。そう言う間柄じゃなくちゃいけないのよ」
「また、胡乱な言い回しだね。面倒臭いのは好きじゃないよ」
そう言ってシュウは、ユカリをベッドへ優しく寝かし、億劫そうに服を脱いだ。
「リコが狙われたらしいね」
シュウは服を着て、ベッドに寝そべり肩で息をするユカリに聞いた。ユカリは、息を整えながら、汗で濡れそぼった髪をかき上げた。
「私じゃないわよ」
「どうだか」
「あら。本当よ。第一私があんな手際の悪い事をするかしら? やるのならば一度に、徹底的にやるわ」
「……そうだろうね。君ならばこんな中途半端な真似はしない。ばれたら自分の身を危うくするだけだからね。こんな事をするのは、まあ、姉妹の中ではアイお嬢様くらいだろうね。まったく、相変わらず困った子だ」
「……私達の『計画』に邪魔なのは、コズエやリコなんかよりも、アイの方なのかもしれないわ。あいつは馬鹿だし後先考えずに行動するけど……いえ、だからこそ危険だわ。あいつの強い猜疑心は、あいつ自身を滅ぼすでしょうけど、あいつの頭の悪さは周りを巻き込むわ」
「成程ね。なら距離を取って巻き込まれないようにするのが、本来なら賢明な行動だろうけど。……でも僕達はそこにも立ち向かわなくちゃいけないわけだね」
「そう言う事。計画に変更はない。あんな小娘ごときに振り回されるのは癪だけど、気をつけなさい。あなた、少しでもあいつの猜疑心の釣り針に引っ掛かれば、すぐにでも網で掬われて、何人もの調理人に包丁でブスリよ」
「はは、怖いもんだ。それでは君の言う通り、アイには気をつけよう。とはいえ、それくらいでないと張り合いがないというものだけどね」
シュウはユカリに短くキスをして、金髪をサラサラと風に揺らし、緋のマントを優雅に運び、颯爽と部屋を後にした。




