十八、『嘆き、苦しむおねーさん』
「……ねー、ミヤ姉、いい加減機嫌直してよー」
綾音と美矢実は、野党どもからかっぱらった馬に乗って、ぱからっぱからっと威勢よく野を駆けている。綾音は乗馬が苦手なのか、ふらふらと頼りない。美矢実はと言うと、綾音とは段違いの手さばきで、綾音のずっと前方で、颯爽と馬を操っているが、ぶすっと押し黙ったままで、頬を膨らませている。
「ねー、馬も手に入ったしさー、何か持ち物も奪ったしさー、いいじゃん」
「……ふん、こんな痩せ馬で満足しろっての? 泣く子も黙る大盗賊がねぇ」
「いや、そんなご高名になった覚えはないよ」
「あんな汚い野党どものお宝なんて、どーせ碌なもんじゃないわよ、まったく。……それとね綾音。こんなことしたって、どうせあの街はもう駄目よ? 統率も取れない、武力も無い。滅び去るのは時間の問題ね」
「……」
「……別にあんたが悪いわけじゃないからね。あんたが気に病むことはないわ。やれって言ったのはあっちだし、報酬を貰えなかった私達はただの被害者よ。ま、あんなお気楽に政治やってりゃ、あのままでもきっとすぐ滅んでいたでしょうけど」
と美矢実なりに慰めて、野党から奪った袋の中身を覗いた。……するとどうしたことか、美矢実は目を丸くして、急に黙りこくって、馬を止めてしまった。
綾音はそんな美矢実にやっと追い付いて、怪訝そうに覗き込む。
「……ねえ、ミヤ姉、どうしたの?」
「……ここここここ、これは!? え、どういうことなの!? 蛋白石!? 翡翠! 青玉!! こ、こ、これは金剛石!? あ、ああああんな貧乏そうな野党どもが!? 駄目、これは駄目よ!? 綾音! 即刻戻るわよ! どこで盗ってきたのか聞きに行かなくちゃ!!」
美矢実はそう言うなり、もと来た道に方向転換して、馬を走らせた。綾音も慌ててそれを追う。
「あ、いや、ちょっとミヤ姉! 戻ったって無駄だよ!?」
「聞ける! 同業者だもの! 助け合いの精神よ! きっと親切に教えてくれるわ!! 教えてくれなきゃ体に聞くけどねェッ!!」
「いや、そうじゃなくて! 死人に口無し! 忘れたの!? あいつら皆殺しにしちゃったでしょ!!」
「ギャアー!! あーッ!! うわーッ!! そうだったーッ!! わーすれーてたーッ!!」
綾音の指摘に、美矢実は頭を抱えて天に向かって叫んだ。
その声は、遠く小山にこだました。
第一章・『音もなく盗め』、完結。




