十七、『悲しみにくれるお姉さん』
綾音は轟々と燃え盛る城の外で、達也の治療を受けていた。
「本当にすごいや。みるみる治っていく」
「いえ……これ程回復が早い人なんて、そうそういませんよ」
「そうなんですか? でも、こういう能力があれば旅も楽なんだけどなぁ」
感心しながら自分の回復を待つ綾音。美矢実はそんな二人に目もくれず、激しく燃え盛る〈小谷城〉を、悲しげな顔で見上げていた。
「お姉ちゃん……」
そんな様子の美矢実を、どうしたものかと心配そうに見上げる凛。
「ああ、ミヤ姉の事なら心配しなくていいよ。多分――」
「あぁ――――――――ッ!! 何一つッ!! 何一つ盗めなかったッ!! タダ働き、タダ働きッ!! あり得ない、アリエナイッ!! アリエナイワッ!! あそこには、金銀財宝があった筈なのよ、あの女の言葉が正しければねッ!! それが、全部……全部……全部燃えてゆくッ!! 全部盗むつもりだったのに、あるだけ盗むつもりだったのにッ!! 何なの、何なのよ、ねえ神様!! あなた何をさせたいのよッ!! ふざけんじゃないわよ!! あんた雲の上から見下ろして笑ってんじゃないでしょうね!? 降りて来いコラァッ!! ぶっ殺してやるわよこのやろー!! おーい! 聞いてんのかー! 私が怖いかー!」
天に向かって叫び続ける美矢実を、かわいそうな人を見るような目で見つめる綾音。
「……いい人なんだよ?」
「……そっか」
凜も綾音に倣い、生ぬるい視線を美矢実に向けた。
夜明け前だというのに、城下町は騒然としていた。城が天を焦がせと明々と燃えているのだから、それも当然である。ざわざわがやがやと、火がこちらに回らないかとやきもきしている住民を尻目に、優香は一人、虚ろな瞳で、じっと自分の家で待ち続けた。
城から続々と人が逃げて来た。街から連れられてきた女や稚児の他、生き残った役人もいた。
街は、役人を怨むものがほとんどの為、いい顔はしなかったが、城の中で何があったか知らないがどうも皆沈鬱な表情をしていて、また状況が状況である為、責め立てるのは後にしようとなった。
「おい優香! 達也と凜が帰ってきたぞ!!」
優香は弾かれたように立ち上がり外に出て、戸を閉めもせずに走り、二人の姿を見止めると、全身を震わせ涙を流し、凜をぎゅっと抱き締めた。言いたいことは山ほどあったが、二人の無事な姿を見ると全て吹き飛んでしまった。
凜も、何か言わなくてはいけない事が山ほどあった気がするが、
「ごめんなさい」
と呟いたきり言葉に詰まり、恐怖を思い出し、安堵に震え、むせび泣いてしまった。
達也はそんな二人を微笑ましそうに見つめ、そして思い立ったように、
「皆、聞いてくれ! 広尾忠長は死んだ! 序でに加藤平太も死んだ! 俺達はもう、家に閉じこもって暮らさなくってもいいんだ!」
と声高に叫んだ。それを始め、何を言っているのか周りのものは分からなかったが、やがて理解が伝搬すると、皆鬨の声を上げ喜んだ。
しかし優香は、美矢実の言葉を思い出し、わなわなと体を震わせて膝をついた。
(野党が……来る……?)
「……優香姉……?」
それを怪訝な顔で見る凜。そして二人、
「大変だ大変だ! 外に、外に野党どもの……!!」
と喚き立てる男の声を聞いた。
『野党』と聞いて皆の顔が一瞬にして青ざめ、歓喜の色が吹き飛ぶ。まさか、この混乱に乗じて来たのか。今、街を守るものはいない。これぞ、絶体絶命。
しかし、次に聞こえた言葉は、あまりにも意外なものだった。
「野党どもの死体がごろごろ転がっていやがる!!」




