■4日目-1■
暁音は目を覚ました。
心臓がズキズキしていた。
「異世界人がいると魔力や精神が安定するから」
そういう理由で暁音はあの吹雪の中にいた。
それで、シエロには声が届かなかった。
役に立てなかった。足手纏いだった。
ぐ、と胸の前で右手を握り締めた。
・・・違う。違った。
今はそんなことを考えている場合じゃなかった。
今は切り替えよう。
3日分の夢で分かった内容を整理しようとした。
・1日目の夢は、赤い目をしたシエロ、呪文を詠唱するカルマ、右腕のないユオ
・2日目の夢は、赤い目をしたシエロからの攻撃、タルデの声、ユオの防御魔法、呪文を詠唱するカルマ(シエロを操る術式を封印?)
そして3日目の夢で分かったことは、
・カルマの呪文の詠唱は時間がかかっている。
・カルマの詠唱中は無防備になっている。(詠唱と防御は同時にできない?)
・カルマは青白く光っていた。
・シエロに暁音の声は届かない。
・シエロの状態で現在分かっているのは赤い目と、黒い炎の攻撃。
暁音はそこまで整理して、考え込んだ。
やはり、特に未来が変わるような行動をしていないからだろう。
3日分の夢は地続きだった。
これはきっと、【私が元々辿った未来】だ。
夢の中で暁音は、この吹雪の場面から逃げ出していた。
もしこのまま【私が元々辿った未来】を見ていたら、
吹雪の中を走る自分を見ることになるのかもしれない。
・・・・まずはこの未来を変えなくてはならない。
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カルマは今日には任務から戻るはずだ。
もしくは、もう戻っているかもしれない。
朝食を摂ってから、訪ねてみようか。
食堂に入ると、この宿舎唯一の女性の魔法使いであるパラムと、最年少の魔法使いであるルクスが向かい合って食事をしていた。
パラムは、腰まである赤いウェーブの髪を今日は一つに結んでいた。
「おはよう。」
暁音はパラムの隣に座った。
二人が「おはよー。」「おはようございます。」とそれぞれ返事をした。
今日の朝食はトーストとコーンクリームのスープが提供されていた。
暁音はバターをたっぷり塗って食べた。
「私たち、今日はこの後任務なんだ。」
パラムが言った。
「そうなんだ。最近二人で組んでることが多いよね。」
暁音が言うと、ルクスが「仕方ないんです」とため息混じりに答えた。
「この人、報告書がめちゃくちゃなんです。だから、僕が修正しないと。
僕はまとめるのが得意ですから。・・・他の人だと倍はかかりますよ。」
ルクスの眉間に皺がよっていた。
彼のトーストには薄くバターが塗られていた。
「助かるなぁ〜ルクスがいてラッキーだな〜」
パラムが言った。彼女のトーストの上には苺のジャムがたっぷりと乗っていた。
ルクスの小言など全く気にしていないようだった。
「もう少し、まともに書けるようにしてください。」
真顔でルクスが答えた。そしてまた小さくため息をついていた。
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二人を見送った後、スープを飲んでいると、ユオが食堂に入ってきた。
ユオは暁音の隣の席に座った。
「カルマ帰ってきてたぞ。・・・寝てたけど。」
ユオはカルマの部屋の前を通るついでに覗いて来たらしい。
トーストには何も付けず、スープに浸しながら食べていた。
「まぁ、午後には起きるだろうから。俺も行く。
・・・で。次の夢は何か見たのか?」
自分に大きく関わる未来の夢だ。
ユオには聞かない選択肢などあるわけがなかった。
「うん。一応情報を整理してみたよ。」
暁音はメモ帳を取り出した。
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■メモの内容■
・私は時間を遡った。つまりタイムリープした。しかし辿った未来の記憶はない。
・私は夢で【このままいけば辿り着く未来】を見ることができる。
=何もしなければ多分、【元々の私が辿った未来】の夢を見るということ?
・私が夢を見始めたのは3日前の夜から。
=3日前のどこか(朝〜寝る前)の時点に私はタイムリープした?
・1日目の夢は、赤い目をしたシエロ、呪文を詠唱するカルマ、右腕のないユオ
・2日目の夢は、赤い目をしたシエロからの攻撃、タルデの声、ユオの防御魔法、呪文を詠唱するカルマ(シエロを操る術式を封印?)
・3日目の夢は、カルマの呪文の詠唱は時間がかかっていた、青白く光っていた、詠唱中は無防備(詠唱と防御は同時にできない?)、シエロに暁音の声は届かない
・シエロの状態で現在分かっているのは赤い目と、黒い炎の攻撃。
・シエロが操られる未来を変える。
・ユオが右腕を失う未来を変える。
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ユオはメモを受け取り、【3日目の夢】の部分に目を通した。
「時間のかかる詠唱、防御と同時にできない、青白く光る・・・ね。」
ユオは、【シエロに暁音の声は届かない】については触れなかった。
「青は精神系の魔法だな。シエロはただ術に操られていると言うより、精神自体を書き換えられていて、カルマはそれを解除しようとしているとか・・・」
ユオはそこまで言って、軽く頭を掻いた。
「いや、カルマに聞いた方が早いな。こういうのは、あいつの専門分野だ。」
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食堂にウォルクが入ってきた。
これから遅い朝食を摂るようだ。
銀色の髪が光を反射し輝いていた。
「暁音さん、ユオ。おはよう。」
にこりと微笑んで、ユオの向かいの席に座った。
ウォルクが自分から近くの席に座るのは、そこそこ珍しかった。
「・・・なに。なんか用か。」
ユオはウォルクを警戒しているようだった。
ユオはウォルクが苦手なのかな、と暁音は思った。
そういえば、市場の買い出しから帰ってきた時も、薬草をウォルクに届ける役を暁音に頼んできていた。
「用がないと話してもらえないのかな。」
ウォルクが困ったような笑顔で言った。
本当に困っているようにも見えたし、作った表情にも見えた。
ユオは何も言わずにコーヒーを飲んだ。
コーヒーを飲むのに忙しいから返事はできない、と言いたげだった。
ウォルクが暁音とユオを交互に見た。微笑んでいた。
「二人さ、最近仲良いよね。ここ数日くらい。なんか雰囲気変わった?」
ユオがコーヒーで咽せた。
完全に応答不可になっていた。
仕方ないので暁音が答えることにした。
「そうだね、仲良いよ、最近。」
暁音の思考はこうだった。
・ウォルクがからかおうとしている。→
・ここで否定しても、今後も時間逆行魔法の問題が解決するまではユオと関わる場面は減らないだろう。→
・その度にからかわれて毎回否定するのは無駄な労力だ。→
・肯定してしまった方が早い。→
・今後も「仲良いね」に「仲良いよ」と返せば良い。こちらの方が楽だ。→
・しかもこちらの方がからかい甲斐がないので、飽きるのも早いだろう。
ここまでの思考を1秒でやった結果の「仲良いよ」だった。
ユオが咽せたまま暁音を見た。涙目だった。
「おま・・」そしてまた咳込んでいた。
ウォルクは暁音の返答に少し驚いているようだった。
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