■3日目-1■
目を覚ました。
また心臓が早鐘のように鳴っていた。
シエロがこちらを見た次の瞬間、
黒い炎が迫って来ていた。
タルデの声が聞こえた。
ユオが防御魔法を使っていた。
片腕で。右腕がなかった。
カルマが呪文を詠唱し続けていた・・・。
深呼吸を・・・できなかった。
夢だった。悪夢だった。
「魔法や呪いの痕跡」というパラムの言葉を思い出した。
呪い。悪夢を見る呪い・・・?
冷静に状況を分析しなくては。
自分は冷静な人間だ。・・・自称だけど。
深呼吸をした。今度はできた。
スタラに会わなくては。そう思った。
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スタラに会うにはどうしたら良いだろう?
と暁音は考えていた。
とりあえずスタラの部屋に向かっていた。
スタラの部屋は、なぜか他の魔法使いとは離れた、北の塔の最上階に合った。・・・特別扱いだろうか。
遠くて行くのが面倒な上、基本的にスタラは留守で、部屋にいることは滅多になかった。
階段を登るのに苦労するのに、大体無駄足だった。
きっとスタラ本人は、魔法で登るのだろう。
しかし念の為、一応尋ねてみようと思い立った。
やっと辿り着いた。明日の筋肉痛が確定していた。
スタラの部屋の扉もノックした。
扉が開いた。スタラがいた。
「遅い。・・・入れ。」
どうやら暁音が来ることが分かっていたようだった。
「それで、お前は何を変える気だ。」
スタラが静かに言った。
「私の魔法の痕跡がある。何があった?」
深い緑色の目が、静かに暁音を見下ろしていた。
・・・・・・・。
「・・・なにを、かえる?」
全く意味が分からず、暁音はスタラの言葉を繰り返した。
スタラの目が一瞬揺れた。
「・・・そうか」
そして目を閉じ、考え込んだ。
「ならば、お前はここに何を聞きにきた」
静かに言った。
「あ・・・私、この二日間、悪夢を見てて。そういう呪いなのかなって。
スタラが私のこと、におうって言ってたから。」
暁音は、この説明の仕方で伝わったのか不安になった。
全くうまく話せていなかった。
スタラが目を細めた。
「二日。夢。・・・二日ではまだ未来は変わらないだろう。」
そして小さく、「ならば代償ではない。」「つまり」と呟いた。
小さく息をついた。
「お前はなんらかの理由で、未来の私の魔法により、時間を遡ってきた。
だが過去に遡りすぎると未来の記憶が抜け落ちる。」
「今後、お前が見る夢は、辿った未来とは限らなくなる。
【このままいけば今のお前が辿り着く未来】・・・それを夢で見ることができる。
・・・未来の私が、そうお前に魔法をかけたのだろう」
そして、もう全て話した。とでもいうように椅子に座り込み、目を瞑った。考え込んでいるようにも見えた。
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その後、暁音が質問しようとしても、スタラは反応しなかった。
「全て話した」という態度を貫いた。
あるいは、本当に「全て話した」のかもしれなかった。
ここにいるスタラは、未来を見てきた訳ではないのだから。
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暁音は食堂で朝食を食べていた。
いつもより遅い時間になったせいか、誰もいなかった。
パンを齧りながら、情報を整理していた。
ノートにメモをとっていた。
・私は時間を遡った。つまりタイムリープした。
・私は夢で【このままいけば辿り着く未来】を見ることができる。
=何もしなければ多分、【元々の私が辿った未来】の夢を見るということ?
・私が夢を見始めたのは一昨日の夜から。
=おとといのどこか(朝〜寝る前)の時点に私はタイムリープした?
更にメモを書いた。
・1日目の夢は、赤い目をしたシエロ、呪文を詠唱するカルマ、右腕のないユオ
「右腕のないユオ」書いてから少し震えた。
しかしそのまま書き続けた。
・2日目の夢は、赤い目をしたシエロからの攻撃、タルデの声、ユオの防御魔法、呪文を詠唱するカルマ
そして、カルマの文字の後に(シエロを操る術式を封印?)と書いた。
夢の中の自分は、そう認識していた気がした。
未来の私が変えに来たのは何だろうか。
情報は少ないが、現時点分かっている点でも、すでに変えるべき未来が二つあった。
メモに書き加えた。
・シエロが操られる未来を変える。
・ユオが右腕を失う未来を変える。
しかし何をしたら良いのか。
まず、ユオの負傷の原因は特定できていないが、シエロの攻撃によるものの可能性が高い。
つまり、シエロを操る術式を特定し、操られないように先回りする。
どうやって?
思考がぐるぐる回るのを感じた。
誰かに相談するべきかもしれない。
操る術式。
夢の中で、シエロを操る術式をを封印しようとしていたカルマ。
ペンを置いた。
・・・カルマに話をするべきだろうか?
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「あんた、今朝飯食ってんのかよ。」
食堂に入ってきたユオが呆れたように言い、暁音の向かいの席に座った。パンを齧っていた。
「・・・ユオの方が、もっと遅いじゃん。」
暁音が指摘すると、「俺は朝から任務だったんだよ。」と睨んできた。
「まぁ、軽いやつだけど。俺は最弱だからな。」
スープを飲みながら軽く言った。
むしろ楽できて嬉しいと思ってそうな雰囲気もあった。
最弱。
確かにユオは8人の魔法使いでは最弱だった。
が、世界的に見れば上位8人に入る、
と言っても過言ではなかった。
しかし「でも世界的に見れば強いよ」と言ってあげるのは辞めておいた。
本人もそれは知っていることだから、今更だった。
ユオは暁音の手元にあるメモを見た。
「なに書いてんの」
暁音は異世界から来たが、普通に話しても通じるし、普通に文字を書いても、この世界の言語として紙の上に載った。
メモをそのまま机に放置していた。
急に片付けるのも変かと思い、タイミングを見計らっていたのだった。
ユオの性格上、自然にしておけば興味を示さないと踏んでいた。
暁音の予測は外れた。
「いや、大したものでは。」
即答した。返事が速すぎた。
慌ててメモを片付けようとしたが、ユオの方が速かった。
「何だこれ、何の妄想だよ・・・」
と言いながら怪訝そうな顔でメモを流し読みし、「右腕のないユオ」のところで目が止まった。
ユオの目が、暁音を直視していた。
「なに、この内容。あんた、こんな夢見てるのか?」
「・・・時間を遡ったって、書いてあるけど。」
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