■7日目-5■
暁音は街を行き交う人々を眺めていた。みんなそれなりに忙しそうだ。それぞれがどこかに向かっている。
そういえば、子供の頃パン屋になりたいとか言ってたことがあった気がする。パン屋になったらパンがたくさん食べれるみたいな理由で。もしパン屋になってたら、パンを売るのが仕事になって、朝早くからパンを作って・・・って感じの生活か。結構大変そうだ。そんなことを暁音はぼんやりと考えていた。
ちなみに元いた世界での最終的な仕事はゲーム関係のグラフィックデザインだった。やりがいがあるかと言えば、まぁ、それなりに。だけど会社の方針的に残業が多かったし、仕事辞めたいと思ってたかと言われると、かなり思ってた。宝くじ当たれと思ってた。当たってたら辞めたと思う。
「シエロはさ、夢を叶えた後に何をするの?」
揚げパンの最後のひとかけらを飲み込み、暁音が聞いた。
「え?」
シエロの方はまだパンが少し残っていた。暁音の方を見ているその目が、少し揺らいで見えた。
「・・・・・・。」
シエロはしばらく答えなかった。
暁音の方が沈黙に耐えられずに話だした。
「ちなみに私はさ〜子供の頃はパン屋になりたかったけど、今パン屋さんの生活できる気がしないな〜。早起き苦手だし。だから、今の夢は宝くじが当たること!そして一生ニート生活!・・・この世界って宝くじあるのかな?」
暁音は自分の夢を語った。子供の頃の夢と、大人になってからの夢だ。
「宝くじ・・・?」
シエロは暁音の文脈から推理しようとした。
昨日の昼に、暁音がユオに【ニート】について説明しているのを聞いていた。【就学しておらず、就業もしておらず、訓練も受けていない若年層だよ。】と暁音は言っていた。
つまり、それでも暮らしていける身分。宝くじというのは働かなくて良い生活を得るためのくじなのだろう。恐らく、金貨などが大量に手に入るような。
「一生分の生活費が一度に手に入るような、安全な方法はないと思う・・・。」
シエロは考えながら言った。そして、昨日暁音がこの世界での暮らしを【ニート希望なら、夢の生活】と言っていたことを思い出した。
「暁音さん、ここでの生活が気に入ってるんだね。」
くす、とシエロが笑った。
「実はそうなんだよね。」
暁音が答えると、シエロは笑っていた。嬉しそうな顔をしていた。
「・・・俺も気に入ってるんだ、ここでの生活。」
揚げパンの最後のひとかけらを口に放り込み、シエロが言った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
二人で宿舎に戻り、玄関でシエロとは分かれた。
暁音は薬品のビンと薬草が入った袋を持って、ウォルクの部屋に向かった。
(重すぎる。街から一人で運ぶのは無理だったな。途中でバテたかも。)
ウォルクの部屋をノックすると、「はい、ちょっと待ってね」と声がした。
しばらくしてウォルクがドアを開けた。袋の中身を確認し、「ありがとう。」と言った。
「シエロとは話せたみたいだね?良かった。」
ウォルクは暁音を見て微笑んでいた。
「あ、うん・・・。」
(・・・話せたけど、別に意味のある話をしたわけじゃ・・・)
【夢を叶えた後に何をするか】の話も答えて貰えていない。
暁音の顔を見てウォルクは何か察したのか、少し肩をすくめた。
「何でもない時間を一緒に過ごすことにも、意味があることはあるよ。」
そう言ってウォルクはドアを閉じようとし、思い出したように言った。
「今日の夕食は僕が作ったんだ。上手くできたと思うよ。」
そして今度は本当にドアが閉じた。
ーーーーーーーーーーーーーーー




